5話
「雄太」
慎一郎が声を掛けると、雄太は泣きそうな顔で慎一郎を見上げた。
「しゃんとしろ。情けない顔をするな」
そう言いながら慎一郎は雄太の頭をクシャクシャと撫でた。
そして振り返り、電話をしている鈴掛を見る。
(神の手を持つ市村春香……か……)
慎一郎は息子の足を治せるならと、祈る気持ちでいっぱいだった。
鈴掛が電話をする少し前。
東雲マッサージ店では東雲直樹が、苛立たし気に電話をしていた。
「だ・か・らっ‼ 何度も言っているでしょう? 市村春香はうちの従業員です。お宅がどこの誰と契約書を交わしたか知りませんが、市村春香は どこにも行きませんから」
その様子を春香は少し離れた所から見ていた。
(あの人達は いったい何がしたいんだろう……。いったいいつまでこんな事を続けるんだろう……。私の事を捨てたクセに……)
毎日『要らない子』と言われていた。
その娘が金になると分かると連日 続いた金の無心。
卑しい作り笑い。
全てにウンザリしていた。
「うちに言われても困ります。警察に被害届を出すのが正解ですよ。では」
直樹は叩き付ける様に受話器を置いた。
「いつもすみません……」
春香が深々と頭を下げると、いつの間にか傍に来ていた直樹の妻の里美が 春香の肩を抱いて
「大丈夫よ。ああ見えて直樹は頼りになるんだから」
と言ってくれる。
「はい」
春香は少し笑って答える。
「二人には俺がどう見えてるんだか」
直樹が大袈裟に溜め息を吐くと、また電話が鳴った。