593話
「美味いなぁ〜。やっぱり炭火での焼き鳥って良いなぁ〜」
「梅野のチャラい見た目に焼き鳥って似合わないけどな」
「えぇ〜」
梅野が砂肝を片手に大袈裟に驚いてみせる。
「そっすよね。梅野さんってイタリアンとか、そう言うの似合いそうっす」
「ん〜。俺、蕎麦とかも好きだし食べに行くけどなぁ〜」
「え゙? そのパツキンの髪で蕎麦っすか?」
「お前だって、リンゴ飴みたいな真っ赤じゃないかよぉ〜」
純也と梅野の会話を聞きながら、春香はクスクスと忍び笑いをしていた。
「春香さん、笑い過ぎだよぉ〜?」
「春さん、笑い過ぎっす」
二人にツッコミを入れられて、更に笑いが止まらなくなった。
「塩崎さんと……梅野さん……。フフ……仲が良い……兄弟みたいなんですもん。フフフ……」
「だよな?」
「俺も、そう思う」
春香の言葉を受けた鈴掛と雄太が相槌をうつと純也が目を丸くし、梅野が苦虫を噛み潰したような顔をする。
そんな二人を見て雄太達が大爆笑をした。
「あ、雄太くん。アレ呑まない?」
「ん? あ、そうだな。取ってくるよ。ソル、ちょっと手伝ってくれ」
雄太と純也が家に入り、鈴掛と梅野が不思議そうな顔をする。
「春香ちゃん、アレって?」
「えへへ。とっておきです」
「なんだろぉ〜?」
雄太が手に戻ってきたのはワインのボトル。
「ワイン?」
「ええ。俺の生まれ年のワインなんです。春香がプレゼントしてくれた物で、今回開けようって思ってたんですよ」
訊ねた鈴掛が雄太の手にしていたボトルを覗き込んだ。
「……マジで、Since1969って書いてある……」
「こんな良いの開けてもらっても良いのかなぁ……?」
純也は持ってきたワイングラスを皆の前に置いていく。
「いつ飲もうかと考えてたんですけど、俺と春香で一本はキツいし、皆がいるお祝いの席で開けようかって話したんですよ」
そう言って、雄太はゆっくりとグラスにワインを注いでいく。ふわっと華やかな香りが辺りに広がる。
「じゃあ……。えっと……。あ、春競馬頑張りましょう。乾杯」
何に乾杯しようかと考えた雄太の言葉に、皆が笑ってグラスを上げる。
「ん〜。良いな、コレ〜」
「俺、あんまワインって飲まないけど、これまろやかって感じっすね?」
「うん。美味い」
口に含むと華やかな香りが鼻から抜ける。
「春香ちゃん、ツクネと砂肝お代わり」
「あ、俺もツクネ食いたいっす。後、ウズラお願いするっす」
「俺はツクネと皮よろしくねぇ〜」
「はいはい。少々お待ちください」
余るかと思っていた食材は、見事に完食され、夕方までゆっくり話して鈴掛達は寮へと帰って行った。
「喜んでもらえて良かったな、春香」
「うん」
後片付けを終えて風呂に入ると、純也と遊びまくった所為で疲れたのか、凱央は早々にベビーベッドでスヤスヤと眠った。
その寝顔を見ながら、雄太は春香の肩を抱いた。
「今日は、本当にありがとうな。炭火で焼いた焼き鳥なんて久し振りで美味かった。焼くのも楽しかったしさ」
「えへへ。雄太くんが楽しんでくれて私も嬉しい」
チョコンと胸に頭を預け、春香は嬉しそうに笑う。
雄太の収入があれば、高級レストランで豪華なディナーと言う選択も出来る。だが、皆でワイワイするのも贅沢な時間の過ごし方だと雄太は思っていた。
「春香と出会えて、本当に良かった。ありがとう」
「え?」
「俺は、世界一幸せだって思ってるぞ」
「それは、私のセリフだからね? ありがとう、雄太くん」
雄太は精一杯背伸びをしてキスをする春香をしっかり抱き締めた。初めてキスをした日から、数え切れないぐらいのキスをしてきた。春香からのキスも、もう数え切れない。
昨夜、何度も何度も抱いた小さな体の温もりが、今自分の腕の中にある奇跡がとてつもなく愛おしい。
「来年も、いっぱい楽しめるパーティー考えるね」
「その前に春香の誕生日を忘れるなよ?」
「えへへ」
また一つ歳を重ね、騎手としても父親としても、春香の夫としても、頑張らねばと思う雄太だった。




