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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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588話


 何度か鈴掛はチラチラと女の子達がたむろっていた場所を見ていたが、立ち去った女の子達は戻って来る様子はなかった。


(よし、もう戻って来ないよな? 大丈夫だろう)


 おそらく最後だろうと思う後輩が立ち去った後、座り込んでいた雄太と鈴掛は大きな息を吐いてゆっくりと立ち上がった。


「雄太、車で帰れるか?」

「はい。もう大丈夫です」

「本当に無理するなよ? 何かあったら春香ちゃんが泣くぞ」

「それだけは、絶対に嫌ですね。長時間、ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる雄太の頭をグリグリと撫でると、鈴掛は思いっきり笑った。


「今更、遠慮すんな。何年一緒にいるんだよ」

「そうですね」

「んじゃな」

「はい」


 片手を上げて自分の車へ向かう鈴掛の背中がいつも以上に大きく見えて、雄太は深々と頭を下げて車へと向かった。




 高速に乗る前にコンビニに寄った雄太は春香に『まだ中京競馬場出たところなんだ。少し遅くなる。ごめんな』と電話をした。女の子達が立ち去るまで、それなりに時間がかかったからだ。


 いつも以上に気をつけて安全運転で帰宅した雄太は、玄関に出迎えてくれた春香を思いっきり抱き締めた。何かあったのだなと電話の時点で察していた春香は、雄太の背中に両手を回し、黙って抱きとめていた。


 小さいが優しく、いつも癒してくれる手が雄太の背を撫でてくれる。


(情けないな……。でも、春香はそんな俺でも受け止めてくれる……。春香の前でだけ、俺はただの鷹羽雄太になれる……)


 自分自身が変化させようとしていなくても、周りの状況は変化していっている。それは、雄太が思う以上にハイスピードだった。


(しっかりしなきゃな。俺がついて行けないなんて思ってたら春香に悪いよな……。俺以上に周りの状況が変化したのは春香なんだから……)




 いつもより少し遅くはなったが、家族一緒に風呂に入り、夕飯を食べた。


 今日は地下の雄太の部屋で家族一緒に寝ようと言うと春香は嬉しそうに頷いた。凱央を寝かせながら、今日あった事をポツポツと話す。


「そう……。そんな事があったんだ……」

「うん。でも、もう大丈夫だから。せっかくアルとの初レース勝てて嬉しかったのにさ……」


 何とも言えないもどかしさが雄太の心に影を落としているのを感じ、春香は雄太にキスをする。


「え?」

「おかえりのキスしてなかったから」

「あ、うん」


 ふんわりと微笑む春香の優しさに胸が熱くなる。そして、春香はお祝いのキスを二度した。


「レコードタイムだったでしょ? すごいよね。アル、楽しそうに走っててドキドキしちゃった」

「春香にも楽しそうに走ってるように見えてたか?」

「うん。頑張ってるなって感じもしてたよ? でもね、生き生きと走る事が楽しいって感じが伝わってきたの」


 そう言って、真ん中でスヤスヤと眠る凱央の顔を見ている春香を見詰める。穏やかで優しい母の顔をしている春香は美しいと思っているのだ。


(普段は可愛いのになぁ〜)

「アルの背中にいる雄太くんも感じてるかなって思ってた。馬に乗ってる時は、色んな事を考えなきゃいけないのは聞いてて分かってたんだけどね」

「そっか。実は俺も感じてたんだ。楽しいって言うか、気持ち良さそうだなって」


 生き生きと伸び伸びと軽快に駆けるアレックスの気持ちが伝わってきたのを、テレビを見ていて春香が感じていてくれたのが嬉しかった。


「アルにご褒美を持っていってあげたいなぁ〜。何が良いかな? レコードだし、少し奮発してあげても良い?」

「飯塚調教師(せんせい)に訊いておくよ。てか……また舐められるぞ?」

「あ〜。かも知れないね〜」


 凱央を起こしてしまわないように、小さく笑い合う。


 まだ、盗聴犯が捕まった訳じゃない。ハーティの時のように、雄太に乗り替わりになった事を批判する人がいない訳ではない。既婚者である雄太に言い寄る女性などがいなくなった訳でもない。


 問題は解決はしていないのだが、凱央の顔を見ながら春香と話していると、心の中のトゲトゲしたものが溶けていく気がした。




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