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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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58話


「春香。春香、起きなさい」


 里美の声が聞こえ体を揺さぶる感じがして、春香はゆっくりと目を開けた。


(ん……? もう、朝……? あっ‼ 寝坊したっ‼)


 春香はガバッと体を起こした。


「ご……ごめんなさいっ‼ 里美先生っ‼ 急いで開店準備……あれ……? 外……暗い……?」


 カーテンの隙間から見えた外は真っ暗だった。


(あ……私、『閉店作業手伝います』って言ってたのに、寝ちゃってたんだ……)


「春、寝るなら、ちゃんと着替えてからな? そのまま布団もかぶらず寝てたら、風邪を引くんだぞ?」


 直樹が呆れたように言い、里美は脱ぎ捨てていたコートをハンガーに掛けてくれている。


「初めて一人で遠出して疲れたのは分かるけどね」

「ご……ごめんなさい……」


 春香は、ベッドの上で正座をすると頭を下げた。


「で? 無事競馬場に行けて、無事に鷹羽くんのレースは見られたんだな?」


 直樹が笑いながら訊ねた。


「はい。ちゃんと競馬場まで行けて、しっかりレース見られました。親切なおじさんが色々と教えてくれ……」

「春香っ‼ あなた、知らないおじさんと一緒だったのっ⁉」


 直樹の隣に座ろうとしていた里美が声を上げる。


 直樹は目を大きく見開いた。


「何もされなかったでしょうねっ⁉ 連絡先を訊かれたりしなかったっ⁉」


 里美が矢継ぎ早に訊く。


「何もされてないし、連絡先も訊かれてないです。名前すら訊かれてないし。競馬好きのおじさんって感じの人でした。パドックで馬の見方や馬券を買うポイントとか教えてくれて。一緒に鷹羽さんのレースを見ました。おじさん、鷹羽さんの事を褒めてました」


 ニコニコと笑って話す春香に、ホッして里美はペタンと床に座った。


「楽しかったか?」


 苦笑いを浮かべながら直樹が訊ねると、春香は頷いた。


「とっても楽しかったです。馬って凄く走るのが速いんですね。鷹羽さんの初騎乗は……二着で残念だったけど、それでも頑張ってるのが伝わって来て。本当に行って良かったです。我が儘言ってごめんなさい」


 春香は、再び深く頭を下げた。


「本当に心配だったのよ?」


 今日一日、ずっと心配し続けていた里美は深く溜め息を吐いた。


「私も不安だったけど、頑張れば何とか出来るんだって。少しずつやれる事を増やして行けたら良いなって思って。それで、次も行きたいなって思って」

「次? また競馬場に行きたいって事……?」


 春香が言うと、里美は眉をひそめた。


「駄目……ですか……?」


 恐る恐る訊く春香を、直樹は真剣な目でジッと見た。


「なぁ 春。それは、鷹羽くんが言ったのかい?『次もレースを見に来て欲しい』って」


 春香は首を横に振った。


「鷹羽さんは、何も言ってないです。今日は鷹羽さんを見ていただけで、話してもないし。でも、騎手としてデビューしたんだから、次もレースに出るんですよね?」

(春の意思……? なぜだ……? まさか……な……)


 フゥと直樹は息を吐いた。


「春が知らないのは無理もないけど……。あのな、競馬場ってのは北海道から九州までいくつもあるんだ。鷹羽くんが今回阪神で走ったからと言って、次も阪神で走るとは限らない。例えば、次のレースが東京だと言われたら、春は一人で東京まで行くのか? それだけじゃない。競馬ってのは、大抵土日にやってる。鷹羽くんが両日レースに出るとして、春が見たいと思ったら、春は忙しい土日 出勤しない事になる」


 たくさんの情報と内容に、春香は唖然とした。


 春香はゆっくりと一つ一つ頭の中を整理して行く。


(えっと……土日にレースがあって……。北海道とか九州は無理……。東京でも一人じゃ無理なんじゃ……)






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― 新着の感想 ―
すっかり疲れて帰ってきた春香ちゃん。 それに気がついた里美さんと直樹さん。 確かに心配だった事でしょう。 そんな二人は春香ちゃんをあんじ色々話ますが春香ちゃんは興奮冷めやらぬ様子。 二人は春香ちゃんの…
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