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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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573話


 2月11日(日曜日)


 京都競馬場で開催されたG3のきさらぎ賞。


「良かったな、ソル。格好良かったぞ」

「サンキュ、雄太」


 優勝したのは純也だった。雄太が取材を受けている時、オマケのついでのような扱いに苛ついてしまったのも、どこかに吹っ飛んでしまった。


「今日はおめでとう言うけど、次は俺が勝つからな」

「ヤダね。いつまでも雄太の背中ばっか見てたくねぇからな」


 相変わらずのジャレ合いをしていると、先輩達から純也に『お祝いだ』とお菓子やジュースの差し入れが手渡される。


「あざっす」

「先輩達、ソルが何もらったら喜ぶかよく分かってるよなぁ〜」

「へっへっへ。先輩達には、G1勝ったらA5の肉をくれって言ってあるから、今はお菓子とかでオッケーなんだよ」

「な……成る程」


 さすが食い気の純也だなと思いながら、京都競馬場を出て高速に乗り滋賀へと向かって走った。




「へぇ〜。塩崎さん、先輩の人達とそんな約束してるんだぁ〜」

「俺もビックリした。けど、G1勝ったらA5の肉が食べたいってソルらしいなぁ〜ってさ」


 雄太は、しっかりと煮込まれたおでんの大根をハフハフ言いながら口にする。


「うちですき焼きしたりした時とか、美味しそうにお肉いっぱい食べてくれてたもんね」

「だよなぁ〜。あいつ、首から下の内臓が全部胃袋じゃないかってぐらいに食べるもんな」 


 雄太の言う首から下が胃袋を想像して春香が吹き出した。


「さ……さすがに、それは……フフフ」

「それでも、太らなくて斤量オーバーした事がないんだから、ある意味凄いよな」


 雄太も肉は好きだ。時折、ガッツリ食べたくなるし、春香の作る唐揚げは今でも大好物だ。


 騎手として恵まれていると思うのは太りにくい体質である事だ。だが、油断はしないようにはしている。斤量オーバーで騎乗停止にはなりたくはない。


 体重管理が出来なくて調教師や馬主からの信頼を損なう事は絶対にしたくないのだ。


「マッマ〜」

「おかわり?」


 春香は凱央の前にある器を覗き込む。


 凱央用に柔らかめに炊いたご飯は、後少し残っている。一口大に細かくしたおでんの大根とじゃがいもが器の中にはなかった。


「あ、こっちね」


 小皿によけて冷ましてある大根とじゃがいもを箸で細かくして器に入れてやると、凱央は嬉しそうにスプーンで口に運ぶ。


「そう言えば、凱央って標準体重標準身長より下回ってなかったか?」


 凱央がせっせと食べている様子を見ていた雄太が、健診の時に『小さい』と言われて春香が真剣に母子手帳を見ていたのを思い出した。


「そうなんだよねぇ〜。でも、重幸おじさんは大丈夫って言ってくれたんだよ?」

「重幸さんが言ってくれたんなら心配ないよな」


 『健診で心配な事があれば病院にこい。いつでも診てやるからな?』


 春香を溺愛し、春香の子である凱央を猫っ可愛がりしている重幸は、会いたさもあり何かと病院にこいと言うと春香は苦笑いを浮かべながら話していた。


「重幸おじさん、毎週でも診てやるとか無茶苦茶な事を言うんだよぉ〜? しかも、診察室じゃなく副医院長室で診るとか言うし〜」

「それ、姪っ子が子供連れて遊びに来てますってヤツだよな」

「だよねぇ〜。まぁ、そのおかげか、凱央はお医者様を怖がらない子になったけど」


 重幸のおかげもあるだろうとは思うが、東雲の店に行くと直樹と里美が施術服ケーシーを着ていて、病院に近い雰囲気があるのも原因だと雄太は思っていた。


 春香は、ずっと施術服ケーシーを着て仕事をしていたから、子供の目には白衣も施術服ケーシーも同じように思える感覚がないのかも知れない。


「ママタ」

「はい。ご馳走様」


 しっかりと白飯とおでんを食べた凱央は、小さな手を合せる。


 口周りを温タオルで拭ってもらい、雄太のほうをジッと見た。


「よしよし。パパとビデオ見ような」

「ン」


 食後は、雄太と一緒にレースの録画を見るのが凱央の楽しみのようだ。雄太に抱っこされているのも嬉しいのだと思う。


 春香は、そんな二人を見ていて幸せな気分で後片付けをしていた。





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