572話
(えっと……これと……これ)
調整ルームに持っていくミニアルバムの写真を選んでいた雄太の手が止まる。
凱央を抱き上げ満面の笑みを浮かべる春香の写真をジッと見詰める。
(春香……。俺、春香の笑顔が好きだ……。この笑顔を曇らせたくない。いつも笑っていて欲しいんだ)
誰か分からない卑怯な盗聴犯に春香の笑顔を奪われたくなんてないと強く強く思った。
「パッパァ〜」
「ん? 凱央、きたのか」
地下の雄太の部屋に春香に手を繋がれてトテトテと凱央が入ってくる。
「ごめんね。雄太くん、調整ルームにいく準備してるって分かってたんだけど、月曜日に行きたい所が出来たの……」
「行きたい所?」
「うん。おばあちゃんのお墓参り」
「え? お墓の場所分かったのか?」
「うん。やっとね」
春香を育ててくれていた祖母は春香が中学に入る前に亡くなった。その時、実親の言葉に激怒した祖母の姉妹が遺骨を引き取り、春香には墓がどこにあるかも知らされなかったのだ。
『骨になったら春香の面倒もみられないんだから要らないわよ。さっさと持って帰って』
そんな言葉を聞かされ、誰が付き合いをしようと思うだろうか。それまでも、まともな事をしていなかったのだから、親族の怒りは当たり前といえば当たり前だ。
結婚をすると決めた時に、せめてお墓参りをと考えた春香は、何とか親族に連絡を取り墓の場所を教えてもらおうとしていた。
『おばあちゃんには、いっぱい愛情をもらったから、お墓参りしたいんだよね。私が心から大切に思う雄太くんと一緒にお参りしたいの。おばあちゃん、喜んでくれると思うんだぁ……』
そんな思いで春香は何度も親族に手紙を出してはいたが、実親が逮捕された事もあり、出した手紙が宛先不明でいくつも戻ってくるようになってしまった。
それでも何とかならないかと、一生懸命に墓参りがしたいから墓の場所だけで良いから教えて欲しいと手紙を出し続けていたのだ。
「お墓、どこにあるって?」
「神戸。おばあちゃんの生まれ故郷に埋葬したいって事で、おばあちゃんの妹さんが引き取ってくれたんだって。こっちには、お墓なかったし、おじいちゃんは……」
春香の顔が悲しそうに歪む。雄太は何か言い難い事があったのだろうと思うが、訊いておかないと駄目かと思って訊ねた。
「そう言えば、おじいさんの話って今まで聞いた事がなかったよな? 話せる? 大丈夫か?」
「うん。……おじいちゃんは、外に女の人が……ね」
「それって……」
「……私がおばあちゃん家にお世話になるようになってからしばらくして、家に帰ってこなくなったみたい……。もしかしたら、私の所為かなって……」
実親に邪魔者扱いされ、祖父が自分が一緒に暮らすようになって外に女を作り出て行ったら、幼かった春香の心は酷く傷ついただろう。
「おじいさんの記憶ってあるのか?」
「薄っすらとね……。おばあちゃんと喧嘩してた事しか覚えてないけど……」
「そっか」
涙を堪えている春香をそっと抱き締めた。
つらくて悲しい子供の頃の記憶しかないのは、どんなに淋しい事だろうと思う。
「とにかく、おばあさんのお墓の場所が分かって良かったな。やっと、俺もおばあさんに挨拶出来るんだ」
「雄太くん……」
「月曜日は、何の予定も入ってないから神戸に行こうな?」
「ありがとう、雄太くん」
涙を浮かべながら笑う春香にキスをする。
「パッパァ〜。マッマァ〜」
雄太の部屋の中をトテトテと歩き廻っていた凱央が二人の間に無理矢理割って入る。
「お? 何だ、凱央。ママと仲良くしてるからってヤキモチか?」
「ウ?」
「んもぉ〜。雄太くんたら」
雄太の言葉がおかしくて、春香がフフフと笑い出す。どうやらツボったようで、薄っすら涙を浮かべてケラケラと笑っている。
「笑い過ぎだぞ?」
「だってぇ〜。あはは」
可愛くて利口な息子の凱央。優しくて笑顔が最高に素敵な愛すべき妻の春香。色んな事があって、心が疲れても二人が傍にいてくれると癒される。
何があっても守りたいと心に誓う雄太だった。




