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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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554話


 12月20日(金曜日)


 阪神競馬場の調整ルームの雄太の部屋で、梅野と純也の三人でゴロゴロと駄弁っているいつものスタイル。


「この前の凱央、スッゲー可愛いかったよなぁ〜」

「俺、写真でしか見られてない……」


 現地で見ていた梅野はしみじみと言うと、阪神にいた純也は直接見られなかった口を尖らせる。


「俺もビックリしたんだよなぁ……。あれだけの観客がワーワー言ってんだぜ? 赤ん坊だったらビビるって思ったんだけど、普通にバイバイってしてるのと変わんない感じで手を振ってんだもんな」

「慎一郎調教師(せんせい)の『俺の孫だぞ』感が凄かったよなぁ〜」


 雄太の言葉に、梅野がニヤニヤと思い出し笑いをする。


「おっちゃん、孫にデレデレだもんな。春さんにデレてる時よりスゲェーぐらいだもんよ。俺、今まであんなデレたおっちゃん見た事ないぞ」

「間違いないな」


 小さい頃から慎一郎を知っている純也がしみじみと言う。


「孫は子供より可愛いって言うの聞いた事あるぞぉ〜」

「俺も聞いた事ありますよ。孫がいる調教師せんせいから」


 普段、いかめしい顔をしている調教師が、孫の写真を見せてきたり、厩舎の壁に貼っていたりするのを見る事もあるのだ。


「俺、おっちゃんが凱央の顔を一般人に見せるとは思ってなかったな。春さんも」

「そう言えばそうだなぁ〜? 春さんは結婚式の生中継したから、雄太ファンだけでなく、一般の競馬ファンも顔を知ってるけどさぁ〜」


 雄太と付き合っている時から、春香の顔は個人が特定出来ないように加工されていた。交際宣言をした時も『一般の女性ひとですから』と雄太も念押しをした。


「最初はさ、子供の顔を知られたらって思うのあったけど、俺と出かけたりとか、春香が連れていたりとかで凱央が俺の子だって知られてんだよな。母さんは『誘拐されたりしたら』って心配してたけど、春香が凱央から目を離す事もないし、防犯ベル持ってるし大丈夫かなって」

「それでも心配じゃね?」


 雄太の言葉に純也が心配そうに訊ねる。


「ソルや梅野さんは見てなかったけど、春香は護身術っぽいのが出来るんだよ」

「「護身術?」」


 二人は驚いた表情かおをして、声を揃えて訊ねた。


「あんま思い出したくないけど、春香が父さん庇って怪我した時の事なんだけど……」


 雄太の元カノのミナの起こした事件の事は、純也も梅野もはっきり覚えている。大怪我をした春香と捻挫をした慎一郎の事もだが、心を深く深く傷ついた雄太の事は一生忘れられないと思っている。


「春香が、刃物を持っていた相手に対峙たいじ出来たのって、俺や競馬関係者を怪我させる訳にはいかないって言ってたのもあるんだけど、お義父さんがいざって時の為に護身術擬もどきを教えてたからなんだってさ」


 当時は春香が傷つけられた事や原因が自分だったからと言う事で頭がいっぱいだったが、春香と結婚した後に直樹からコッソリ教えられたのだ。


 それは、ようやく春香の腕に傷跡が言われないと分からないぐらいになった頃だった。


 『春が雄太の為に刃物を持った相手にひるまずに相対したとして、脇に相手の腕を固定して手首をひねるなんて事は出来る訳ないだろ? あれ、俺が教えたんだよ。春の身に何かあったら困るからな』


 『思い出したくもないだろうけど』と、直樹が前置きして話した内容に、雄太はハッとしてチラリと春香を見た。


(そうだ……。何の予備知識もなくて、あんな動きをして刃物を落とさせるとか出来ないよな……。しかも、人がいない方向にカッターナイフ蹴ってた……。何より、大の男がビビって動けなかったのに、春香は一人で……)


 金の無心をする実親だけでなく、金目的で刃物をチラつかせたりする奴もいるだろうと、直樹が教えた護身術。それが、初めて役に立ったのがミナの事件だったのだと直樹は溜め息を吐いていた。


「まぁ、身を守る術を身につけてても気をつけるって事は大事だよなぁ〜」

「そうっすね」

「ですね」


 春香の新たな一面を知り、純也も梅野も『人は見かけによらない』という事をしみじみと感じたのだった。





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