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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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549話


 12月16日(日曜日)


 中山競馬場ではG1スプリンターズステークスが開催される。


 雄太は慎一郎の管理馬で出場することになっている。


(雄太くん頑張ってね)

「ンパァ〜。パッパ、パッパ〜」


 いつもとは違う場所、いつも見ているテレビではなく、巨大なオーロラビジョンに映る雄太を見て、凱央は大きな声を上げながら両手を振っている。


「ほほう〜。凱央ちゃんは、しっかりパパが分かるんだな。良い子じゃないか」


 春香達を馬主席に招待してくれた大河内おおこうちが目を丸くして、凱央の頭を撫でる。


「最初はヘルメットとゴーグルでパパだと分かってなかったんですが、最近はしっかり認識してるんです」

「そうか、そうか。凱央ちゃん、パパの応援も良いが、おじちゃんの馬も応援してくれよ?」

「ウ?」


 雄太が乗っているのは大河内の馬ではない。それでも、春香を馬主席に招待してくれたのには訳があった。



✤✤✤



 数ヶ月前……。


「え? 大河内様が?」


 ゴルフ中に肩を痛めた大河内が東雲に訪れたと里美から電話があった。里美が施術したが痛みが取れないと言う事から、春香は急遽きゅうきょ、東雲に向かったのだ。


 VIPルームの準備をしておいてくれた里美に凱央を預け、春香は大河内の施術をした。


「すまんな、春香くん。わざわざきてもらって」

「今更水くさい事はおっしゃらないでください」

「そうだったな」


 何度も何度も窮地きゅうちを救ってくれた春香を娘のように思っていてくれた大河内は、春香が結婚をしても変わらず可愛がってくれている。


 雄太だけでなく、春香の周囲には甘やかしたがる人々が集まるのは不思議だ。甘えてくれないから甘やかしたいのかも知れない。


 あれこれと雑談をして、大河内の所有馬の話しになった。


「うちの馬に鷹羽くんに乗ってもらえるチャンスがあるなら春香くんを馬主席に招待したいんだがな」

「え? 馬主席ですか?」

「そうだ。馬主席なら凱央ちゃんを連れて来られるだろう? 一般席だと小さな子供連れでG1を見るのは大変だからな」


 何十万人でごった返す競馬場に凱央を連れて行くのは大変だろうと、春香も考えていた事だ。


「それは……そうですけど……」

「儂だけじゃないぞ? 坂野や月城も考えとる。いつか、馬主席に春香くんを招待したいとな」

「ありがとうございます。そんな風に考えていただけて……」


 帰宅した春香は、大河内の申し出を話した。春香にレースを見にきて欲しいと考えていた雄太は、ありがたい申し出だと喜んではいたが、中々その機会は訪れなかった。


 大馬主であってもG1に出走出来る機会はまれだ。しかも、その時に雄太に騎乗してもらえるかは分からない。


 継続して鞍上を任せている騎手がいるなら、その騎手でと考える事もあるからだ。




「春香くんは、結婚だ出産だの時に祝儀を受け取らんからな。だから、坂野と月城の内の誰かの馬がG1に出る時に馬主席に招待しようと決めたんだ。儂が一番乗りになって、坂野と月城の悔しそうな顔を春香くんに見せてやりたかったぞ。ハッハッハ」

「いつも仲がよろしくて、そんな事を考えてくださって、私は幸せ者です」

「今更水くさい事を……だろう?」

「はい」


 大河内は春香の頭を撫で、父親の顔をする。そして、坂野と月城が用意して託した馬の手押し車で遊ぶ凱央を見る。


 大きな馬のぬいぐるみにハンドルがついた手押し車は業者に特別に依頼して作らせたと言う一点物だ。乗る事も出来るし、押して遊ぶ事も出来る。


「ウ〜ウ〜。ウキャウ〜」


 大河内の秘書が包みを開けてくれた時から凱央は目を輝かせて夢中だ。


「いつか、凱央ちゃんが儂の所有馬に乗ってくれる夢をみたくなるな」

「そうですね。親の跡を継ぐのはつらい事もあるかも知れないと思うので強制はしないと決めてますが、もし凱央が騎手になったら、その時はよろしくお願いします」

「ああ。任せておけ」


 大きな窓の向こうで、本馬場入場が始まった。


 親子でのG1制覇を見届けようとする大歓声が中山競馬場を包んでいた。





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