凱央の初節句
5月5日は男の子の節句。
凱央の初節句の話しになります。
465話から497話の後の話になります。
色んな事がありましたが、それでも凱央の初節句は楽しく過ごしお祝いしたいと頑張った雄太と春香です。
「五月人形は要らない?」
「どうしてなの?」
直樹と里美は、驚いた顔で訊ねた。
凱央の初節句の一ヶ月ほど前、買い物のついでに東雲に寄った春香に、直樹はどんなものが良いかと訊ねた答えが『要らない』だったのだ。
「最初はね、小さくても良いから買おうかと思ったの。でもね、凱央が五月人形見て大泣きしちゃったんだよね」
「そうなのか?」
「うん。鷹羽のおうちに雄太くんの五月人形があるからって、お義父さんとお義母さんが見せてくださったの。そしたら、火が着いたように泣いちゃって……」
里美に抱っこされてご機嫌で笑っている凱央を見て、直樹は苦笑いを浮かべた。
「雄太くんの五月人形ってどんなのだったの? 鎧兜みたいな?」
「ううん。日本人形って感じのの隣に兜がある奴だったの。何が怖かったのか分からなくて、お義父さんもお義母さんも大焦りしてらして……」
慎一郎と理保は『この辺りでは五月人形は嫁側の親が買うっていうのが通常らしいが、雄太の五月人形を凱央にどうか』と思ったらしい。だが、大泣きしてしまった孫にアタフタとしていた。
立派な鎧兜をと考えていた直樹はガックリと肩を落とした。
凱央は馬のぬいぐるみをニギニギとしていたが、直樹に一つを差し出した。
「お? ジィジにくれるのか? 凱央は良い子だな」
直樹の目尻がこれでもかというほど下がる。
「まぁ、凱央が嫌がる物を無理にとは言わないさ。じゃあ、鯉のぼりは?」
「大きいのだと大変だし、小さいのが良いな。ウッドデッキに設置出来るぐらいの」
春香が両手を広げてみる。
「うん、それぐらいなら出したりしまったりも楽だな。じゃあ、鯉のぼりにしよう」
「ありがとう、お父さん。大好き」
直樹の目尻は、しばらく戻らないのではないかというぐらいに下がり、里美は苦笑いを浮かべていた。
5月5日、6日は雄太は京都競馬場で騎乗する。だから、初節句のお祝いは7日にすると決めていた。
祝いの席は、両家の両親と雄太一家だけだと思っていた鈴掛は、ウッドデッキで凱央に鯉のぼりを見せながら、どこかに出かけようかと思っていた。
「鈴掛さんは、日本酒呑みますよね?」
「へ? 否……俺は……」
「出かけないでくださいよ? 鈴掛さんは、今一緒に住んでるんですし居てください。春香もそう言ってますし」
「え? 春香ちゃんがか?」
「春香にとって、鈴掛さんは親戚のお兄ちゃんだそうですから」
鈴掛は、チラッとキッチンで楽しそうにしている春香を見てウルッとしてしまった。
(ありがとうな、春香ちゃん)
「父さん、凱央を抱っこするのは良いけど、腰をやらないでくれよ?」
「大丈夫だっ‼ ……とは言えないな。凱央、大きくなったしな」
「そうね。今、何キロあるの?」
「6.9キロだったかな?」
「数字で聞くと驚くな」
慎一郎と理保は凱央を抱っこしたり、手や足をプニプニと触る。
「里美さん。6.9キロだったら、平均ぐらいかしら?」
「そうですね。でも、筋肉はしっかりついてると思いますよ? 布団を蹴飛ばしてるところなんて迫力ありますものね」
里美と理保が話していると、空気感が柔らかくなるなぁ〜と雄太は思っていた。
直樹はウッドデッキで鈴掛の近況を神妙な顔で聞いていた。
「そうか……。鈴掛さんが決める未来は、きっと明るいと俺は思うよ」
「ありがとうございます。春香ちゃんと雄太のおかげなんですよ」
二人は振り返り、キッチンで料理をしている春香を見る。
「シメのおうどん出来ましたよぉ〜」
春香はテーブルにうどんの入った丼を置いていく。
「お? 豪華だな」
「うん。お肉と玉子とキツネとアオサ入れてみたの」
まだまだ若い夫婦なのだが、気遣いと阿吽の呼吸といった感じでテキパキと動いている。
「ンマァ〜」
凱央の大きな『食べたい』アピールに笑いがおきる。
「はいはい。凱央の分もあるからね」
「ほら、パパにおいで」
「ンマァ〜ンマァ〜」
たくさんの愛情と笑いに包まれた凱央の未来は輝いているだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
余談ですが柏餅より粽のほうが好きです。ただ、高いんですよねぇ〜(;^ω^)




