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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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537話


 10月7日(日曜日)


 京都競馬場 11R 第25回京都大賞典 G2 15:45発走 芝2400m


 カームは1.1の圧倒的一番人気だ。ただ、斤量は全馬中59kgと最重量。しかも天候は雨で重馬場。


「他の馬には最悪な状況だと思わないか? けど、カームには関係ないよな。なぁ、カーム」


 堂々としていて王者の風格を漂わせているカームに雄太は安心をしながら声をかける。


 何度も騎乗し、G1を三回も勝たせてくれた頼りになる最高の相棒。


(カームがいなかったら、今の俺はないって何度思ったか知れないよな。ずっと乗りたいけど、競走馬はいつまでも走れる訳じゃない……。だからこそ、一走一走を大切にしなきゃな)


 そう思っていたが、ハーティの有馬記念の騎乗依頼を受けてしまって、カームが有馬記念に出るとしたら鞍上は誰になるのか気になったのは事実だ。


 確かにハーティの騎乗依頼が先だった。しかも『引退レース』と言われてしまったら『断れない』と思ってしまった。


(もし、ハーティで負けて……。カームが他の鞍上で優勝したら……)


 何度も何度も想像してしまった。だが、自分が決めた事だから納得するしかないのだ。


(ふぅ。余計な事を考えず、まずは目の前の一勝だ)

「いくぞ、カーム」


 雄太が声をかけるとカームは気合いを入れるように首をブルブルっと振った。たてがみについていた雨が、パシャパシャと弾け飛んだ。





「ンパァ〜。ンパァ〜」


 凱央はベビーウォーカーに乗り、カフェオレ色の馬のぬいぐるみをフリフリしながら、大きな声でテレビの画面を見ていた。


 ベビーゲートのギリギリ手前を陣取っているから、春香はソファーに座りテレビを見ている。


「パパとカームの応援してるんだなぁ〜」


 トレセンにカームが居た記憶は凱央には残るはずはない。だが、今の凱央にとって、カームは初めて触れた馬なのだ。将来、写真を見ながらカームの話を聞かせてやりたいと思う。


(凱央には他の馬と区別がつかないかもって思ってたけど、ちゃんとカームが映ったら動きが激しくなるんだよね。赤ちゃんってあなどれないかも)


 ゲートに入っていく雄太とカームが映る。それを見て、凱央の屈伸運動が激しくなり、春香はニッコリと笑う。


(頑張ってね。無事に完走してね)




 ガシャンっ‼


 ゲートが開くと、カームはスムーズに前に行き、先頭を走る馬の斜め後ろについた。


(カーム、本当に気持ち良さそうに走ってる)


 会うたびに大きな体で甘えてくるカーム。レースで走っている時は雄太と同じでキリッとして見える。だから、愛おしいのだと気づいて雄太に話した。


「え゙……」


 一言呟いて渋い顔をした雄太に笑いが止まらなくなった。


(雄太くんも、カームも格好良いよ)


 画面の中、芝と泥を跳ね上げながらカームは二番手のまま4コーナーを回った。


「カームっ‼ 雄太くんっ‼」

「ンパァ〜。ンパァ〜」


 直線を向き、ほぼ横一線といった感じで駆ける馬達の中から、グンッとカームが抜け出した。だが、他の馬も最後の力を振り絞るかのように追いすがる。


 一頭……一頭と先頭集団から遅れを取り、四頭での争いになった。


「頑張ってっ‼ 後少しっ‼」


 ゴールまで百メートルを切った辺りでグンッと他馬を突き放し、カームは一着でゴール板を駆け抜けた。


「勝ったぁ〜。雄太くんとカームが勝ったぁ〜」


 春香がパチパチと拍手をすると、凱央も真似をして拍手をしている。


(カーム、おめでとう。雄太くん、おめでとう。格好良かったよ)

「凱央、パパ勝ったね。お祝いしなきゃね」

「ンダァ〜。アゥ〜。ンパァ〜」


 ベビーウォーカーを足先で器用に方向転換させ、春香の前まできた凱央を抱き上げた。


「雨の中走って体が冷えてるだろうし、今夜は鍋にしようかな。湯豆腐……寄せ鍋……。凱央も食べるなら水炊きが良いかな。お豆腐とおうどんは確定だね、凱央」

「ウキャウ〜。アバァ〜」


 春香は素早く凱央のオムツを替えて、買い物に出かける準備をした。





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