53話
(えっと……。乗り換えは……あっちよね)
初めて一人で電車に乗り訪れた都会の大阪。
片田舎に住んでいる春香にしたら大都会の大阪。
ドキドキしながら、春香は手にしたメモを何度も確認しながら歩く。
(絶対4レースまでに、阪神競馬場に辿り着かなきゃ)
慣れない都会の人混みにもまれていると不安になるが、自分の初騎乗を見て欲しいと言った雄太を思い出すと、なぜか勇気がわいて来る。
(鷹羽さん、私が競馬場に来るとは思ってないだろうなぁ~。会ったらビックリするかな? てか会えるの? ううん。会うのが目的じゃない。鷹羽さんの初めてのレースを見るんだから)
ドキドキワクワクしながら電車を乗り換えて、ようやく目的の駅に着いた。
(この駅で降りる人が凄く多いけど、皆も競馬場に行くのかな……? そんな訳ないよね? でも……)
キョロキョロと周りを見ると、家族連れも居るが、競馬新聞を持っている人が多い事に気付く。
(競馬新聞を持ってる人は競馬場に行くんだよね? だから、この駅で間違いないね)
何もかもが目新しい。
冒険をしているような気分で、事前に調べておいた道を進むと右手に大きな屋根が目に入った。
(うわぁ……。もしかして……あれが競馬場……? 何て……おっきい……)
初めて目にした競馬場の大きさに驚き立ち止まった。
首が痛くなる程、見上げる。
(ここで……鷹羽さんが騎手デビューするんだ……。初めてのレースがあるんだ……)
競馬場の大きさに圧倒されながら場内に入る。
(広いなぁ……。迷子にならないようにしなきゃ。この歳で迷子とか、さすがに恥ずかしいもんね)
今回の目的は、雄太の出るレースを見る事とそのレースの馬券を買う事と春香は決めていた。
迷ったり、人が多くて買えなかったら困るからと、早速春香は馬券売場へ向かった。
日曜日を予約不可にする事は、直樹も里美も直ぐに許してくれたが、競馬場に一人で行く事は中々許してくれなかった。
『競馬場に行けなかったら、予約不可にする意味ないじゃないですか』
『どうしても、行きたいんです。絶対 行くんです』
何度も何度もそう言って説得を続けた。
断固として譲らない春香に、直樹と里美は根負けした。
(頑固娘め……)
(普段お願い事なんてしない分、言い出したら聞かないんだから……)
日曜日の朝早く、直樹は近くのコンビニで競馬新聞を買って来て、雄太の出るレースの馬の番号を調べてくれた。




