531話
15日、16日両日で三勝を上げた雄太は、上機嫌で帰宅した。
「ただい……」
「雄太くんっ‼」
「うおっ⁉」
玄関ドアを開けた瞬間、春香が飛び出してきて抱きついた。
「雄太くんっ‼ 雄太くんっ‼ お花ありがとうっ‼ 嬉しかったのっ‼」
手にしていたバッグを床に落とし、履いていたスリッパを跳ね飛ばして、ピョンピョンとジャンプする春香をヒョイと抱き上げる。
「そんなに嬉しかった?」
「うん。凄く、すごぉ〜く嬉しかった。ありがとう、雄太くん」
雄太の頭を抱えて満面の笑みを浮かべる春香を見て、花を贈ろうと考えた事は間違えてなかったと思った。
「そっか。喜んでもらえて良かった。サプライズ大成功だな」
「うん。雄太くん、大好き」
ニッコリ笑った春香は雄太にキスをする。二度、三度と唇を合せて、潤んだ目で雄太をジッと見詰める春香が愛おしい。
女心が分かっていないと言われる雄太が、どうしたら春香に喜んでもらえるかを考えに考えた。
(春香自身は宝石とかを欲しがる訳じゃないし、な。それに春香は俺の宝石なんだ。だから、このバラを贈ろう)
数ヶ月前から花言葉の本を読み漁り色々と考えた結果、雑誌のインタビューの仕事の後に花屋に寄り『エーデルシュタインと言うバラを仕入れる事はできるでしょうか?』と相談に訪れていた。
一般的な店舗では扱っていない物ではないかと心配になったのだ。
店主に春香の誕生日に届けてもらうように注文をして、喜んでくれるだろうかと想像すると顔が緩んだ。
(春香には笑顔が一番似合うんだ。心を込めて贈りたい……)
確かにブランド物は持っている。だが、次から次と欲しがってはいない。なぜブランド物を手にしているのかと訊ねたら、『高くて良い物って長く使えるでしょ? それに雄太くんがケチだって思われるような格好はしないって決めたの』と言って笑っていた。
流行りの物も欲しがる事はない。人によっては『つまらない女』『安上がりな女』と言われるかも知れないが、雄太はそんな春香が好きだ。
(春香……。大好きだ……。出会った頃より大好きだ……)
「アゥアゥ〜ダァ〜」
「あ、凱央。ただいま」
ベビーウォーカーに乗った凱央は忘れるんじゃないと言わんばかりに両手をフリフリしている。
もう一度、春香にキスをして床に降ろすと、凱央に手を伸ばし抱っこをしてやる。
(ああ……。この二人がいるから、俺はどんな状況でだって頑張れるんだ……。ありがとうな)
三人で、ゆったりのんびり風呂に入った後、春香の誕生日のお祝いを楽しんだ。
「なぁ、春香」
「なぁに?」
たっぷりと愛し合い、腕の中の春香の体温を全身で感じ、春香は雄太の胸に顔を寄せて幸せな顔をしている。
「俺さ、本当に春香と出会えて良かったって思ってる」
「雄太くん……」
「今更だけど、まだ未成年だった俺と人生を共にしてくれるって言ってくれて、本当にありがとうな」
直樹や里美も賛成はしてくれたが、不安が全くなかったとは言えないだろう。
心に大きく深い傷を負った春香を深く愛し慈しんだ。実の子供以上に苦労があっただろうと思う。
その春香を三歳も年下の未成年に嫁がせたのだ。感謝しているし、実の親のようにも思っている。
「私、雄太くんを誰にも渡したくなかったんだもん。色んな事があったけど、その度に絆が強くなってるって思ってるよ」
「そっか、ありがとうな」
「私こそ、ありがとう。宝石って言ってもらえて嬉しかった」
「ああ」
どちらからともなく抱き締め合い、お互いの体温を感じる。それが何よりも幸せであり嬉しいと思う。
「来年の誕生日も、当日におめでとう言えないんだよなぁ〜」
「もう来年の誕生日の曜日を調べてたの?」
「そりゃな。当日におめでとう言いたいからな」
「ふふふ。ありがとう」
当たり前だと言いきる雄太の愛情を感じた。
(今、世界で一番幸せなのは私だよね)
年下だけど、優しくて頼りになる愛おしい男性の腕の中という特等席で幸せを噛み締めている春香だった。




