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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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528話


 9月14日(金曜日)


 15日、16日の両日は中京競馬場で騎乗予定の雄太は、少し早く起きて凱央と遊んでいた。


 お座りをして積み木で遊んでいた凱央は、ふいに前傾姿勢を取ると四つん這いになった。


「え? あ、もしかして……」


 雄太は素早くリビングボードに置いてあるビデオカメラを手に取り、凱央のほうへ向け録画ボタンを押した。


「オゥオ〜バァ〜」


 キッチンで片付けをしていた春香は、凱央の大きな声に慌てて雄太の横に座り、凱央を見詰めた。


「頑張れ、凱央」

「頑張って」


 フンフンと勢いをつけるように、凱央の体が前後に揺れる。ズリ這いは出来るようになったが、ハイハイはまだ出来ない凱央。


「ンッ、ンッ」


 真剣な顔をしたかと思ったら、凱央の右手が前に出た。


「おぉ〜。進んだぞ」

「凱央、腕の力がついたんだね〜」


 プレイマットについた手をまた少し前にやり、ポテ、ポテとゆっくりと進む姿に胸がいっぱいになる。


「凱央、こっちこられるかな〜?」


 春香が両手を差し出すと凱央はしっかりと春香のほうへと進んだ。距離は1メートルもない。


「ンッンッンッ」


 掛け声を出しながら、凱央はゆっくりと、だが確実に春香の前まで進んだ。


 頑張って進んだ凱央を抱き締めた春香の姿に雄太は見惚れていた。


(なんて……なんて優しい顔なんだろう……。優しくて温かい陽だまり……)


 春香と凱央の周囲だけ、空気感が違うように感じた。雄太がずっと思っていた春香は春の陽だまりのようだというのが、目の前に広がっている気がする。


「頑張ったから喉渇いたでしょ? お茶飲もうね〜。ん? 雄太くん、どうかした?」

「え? あ、うん。えっと……俺も烏龍茶もらおうかな?」

「うん」


 まさに『見惚れてました』状態だった雄太は、ビデオカメラを元の位置に戻し、ダイニングに向かった。



 

 


「じゃあ、いってくるな」

「いってらっしゃい。気をつけて頑張ってね」


 春香は雄太を抱き締めて胸に頬を寄せて甘える。


「ああ。帰ってきたら誕生日のお祝いしような」

「えへへ。楽しみにしてるね」


 春香の誕生日は明日。調整ルームにいる雄太は、どうやっても当日に祝う事が出来ない。


 仕方ないとは思っているが、残念だと思う気持ちが湧いてしまうのだ。


(春香の誕生日もだけど、凱央の一歳の誕生日も当日に祝ってやれないんだよな……)


 凱央の一歳の誕生日は有馬記念がある。まだ正式に騎乗依頼がきている訳ではないが、日曜日でレースがあるのは代わりがない。


 諦めなきゃいけないという思いと残念だと思う気持ちで、腕の中で甘える春香をしっかり抱き締める。


 ここ数日、雄太が春香の誕生日を気にしているのが伝わってきていた。付き合って直ぐ、誕生日が過ぎてしまっていた事を気にしていた雄太が思い出される。


「バァ〜アゥオゥ〜」

「凱央、良い子にしてろよ? パパ頑張ってくるからな」

「ダァ〜キャウ〜オ〜」


 ベビーウォーカーに乗って、両手を思いっきり上げている凱央の前に膝をついて頭を撫でる。


 撫でられる意味を理解し始めているのか、凱央はニコニコと笑う。


「お前とママがいるからパパは頑張れるんだぞ」

「ウバァ〜ダァ〜」

「お? 応援してくれてるんだな?」


 嬉しさからタラタラと流れるヨダレをスタイで拭ってもらい、また頭を撫でられる。


 凱央をかまいだすと際限がない雄太だが、チラリと腕時計を見る。


「あ、そろそろいかないとな」

「うん。雄太くん」

「ん?」


 春香が、両手で雄太の頬をはさみ、精一杯背伸びをしてキスをする。


 柔らかな唇を思う存分堪能する。唇を離した春香がジッと見詰める。


「私は、雄太くんの仕事を分かってて傍にいるって決めたの。だから、誕生日に一緒にいられなくても大丈夫。雄太くんが私を愛してくれてるって知ってるから」

「そうだな。いってきます」


 誕生日は当日でなくても良いと言う春香に、今度は雄太からキスをして、雄太は中京競馬場へと出かけていった。





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