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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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521話


 小倉での騎乗依頼が最終開催日まで続いていて、滋賀に戻れるのは9月の二週目の中京開催からになった。


(今年は小倉に缶詰め……。鈴掛さん達はアチコチ移動しているのに……)


 まだそんなに年数が経っていないのだから、そう言う事もあるだろうと思いながら、ミニアルバムを眺める。


 二週に一度滋賀に戻るルーティンでも、なんとか春香シックにならなかった。


(やっぱり、小倉に来てくれたのが大きいよな)


 丁度、春香が小倉に来てくれた時に、通算四百勝を上げられた。レース終了後に、馴染みの記者達から『奥さんの前で四百勝達成とかやるねぇ〜』『鷹羽くん、持ってるね』『さすが愛妻家の鷹羽くんだな』と散々冷やかされた。


「鷹羽くん、記念に家族揃っての写真を撮ってあげるよ」

「え? 良いんですか?」

「良いよ、良いよ。こんなグッドタイミングで奥さんがレースを見に来てくれるなんてないだろう? せっかくだしさ」


 同じく馴染みのカメラマンが声をかけてくれた。


 レース終了後に一緒に食事をしようと約束していた雄太は、待ち合わせの場所へカメラマンと向かった。


 春香達に状況を話して、雄太はもらった花束を春香に持たせると、自分は凱央を抱っこして写真を撮ってもらった。


「鷹羽くんは、奥さんの前だと表情が違うね」

「そ……そうですか?」

「お子さんが一緒って言うのもあるのかな? 良い表情だったよ」


 後日、そう言って手渡された写真は、今ミニアルバムに入れてある。


 ラフな格好ではあるが、家族揃っての四百勝の記念写真。凱央を抱いてにこやかに写る自分と嬉しそうに花束を抱く春香。たまたまかも知れないが、凱央も笑っているように見える。


(初めて会うカメラマンに泣かなかったんだよな、凱央……)


 泣いたら、里美に任せようかと思ったが、雄太に抱かれている所為か大丈夫であった。里美も一緒にと言ったのだが、ニッコリと笑って首を横に振りマザーバッグと抱っこ紐を持ってカメラマンの後ろに控えていた。


(色んな顔をする俺かぁ……。騎手の俺……。春香の夫の俺……。凱央の父親の俺……。あ、レースに出てる俺とテレビとか取材の時の俺もいるな)


 春香は、どの雄太も好きだと言ってくれたが、若い女の子がいっぱいいる番組に出てチヤホヤされてる雄太は見たくないと、ヤキモチを焼いて拗ねた事が何度もあった。


(俺も嫌なんだよな……。鼻が麻痺しそうなぐらいに香水つけてるとか、どうやって家事してるんだってぐらいに爪が長いとか……。古臭いとかオヤジ臭いって思われるかも知れないけどさ)


 写真の中の春香と正反対の女の子を好む男性も多いだろうとは思う。


(華やかな女の子が良いって人がいるのは分かってるけど、俺には合わないんだよな。てか、よく考えたら俺の女の好みって、父さんと似てるんじゃないか……?)


 以前、慎一郎に春香のどこが気に入ったのか訊ねた時には思わなかったのだが、改めて考えてみるとあまりにも似ている事に気づき、敷布団の上で突っ伏してしまった。


(マジかよぉ……)


 母の理保と春香を比べてみる。


(大人しくて控えめだけど、腹を括ったらバシッとキメるよな……。派手じゃないし、金の事も堅実って感じだ……。料理上手だし……。表立って何かをするって感じじゃなくて、裏方としてサポートしてる……)


 慎一郎が春香を気に入ったのは、自分の好みのドストライクだったからではないかと思った。


(……何か……複雑な気分なんだけどぉ……)


 騎手慎一郎の事は尊敬していた。日本人騎手の中では憧れの存在だった。『父さんのように、皆から認められるような騎手になりたい』と、幼い雄太は思っていた。


 家にいる事が少ない事を疑問に思っていなかった。今となれば、理保なりにつらい事も苦労していた事もあったとは思う。


(父さんって自己中だしな……)


 その慎一郎に尽くしていた理保ははと春香がダブって見える。


(もしかして……俺、性格も父さんと似てて自己中で我が儘なんじゃ……)


 布団に突っ伏したまま青ざめた雄太だった。




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