51話
「若い女の子が競馬場に来るとかないんだし、テレビで見てもらえるように頑張れぇ~」
梅野が、うんうんと頷きながら呑気に言う。
「俺、梅野さん目当ての女性ファンが競馬場に来てるって聞きましたけど……?」
パドックに梅野目当ての女性ファンがいるとか、入待ち出待ちしてるファンもいると言う噂を雄太は聞いていた。
「そんなでもないと思うけどぉ~?」
軽く流す梅野を、雄太と鈴掛は恨めしげに見る。
「とりあえず、このド天然イケメンオーラ垂れ流しは置いといて、だ」
鈴掛は、フイと梅野から視線を外し雄太に向き直る。
「先輩ぃ~。ド直球だし、かなり酷いですぅ~。シクシク」
泣き崩れるフリをしている梅野をスルーして、鈴掛は雄太の肩にポンと手を乗せた。
「放送時間を確認しないまま『見てくれ』って言ったのは、確かにミスだ。けど、今回のはちゃんと謝れば、春香ちゃんなら許してくれるだろ。けど、騎乗ミスは謝って済むって問題じゃない。騎手ってのは信頼されなきゃならないんだからな? 騎手としてだけでなく、社会人としても、しっかり経験を積め。良いな?」
「はい」
騎手としてだけでなく、人生の先輩としての言葉を噛み締め、雄太は深く頷いた。
「そうだぞぉ~。アッチの方の経験値も、な?」
「梅野さんっ‼」
真っ赤になった雄太を見て、また梅野は笑い転げる。
そこに、他の部屋に遊びに行っていた純也が戻って来た。
「たっだい……ま……。なんすか? この状況は……?」
部屋のドアを開けると、壁に向かってブツブツ言っている雄太と、涙を流しながら笑い転げる梅野の姿があった。
そして、生温かい目で見ている鈴掛と言うカオスな状況に理解が追い付かない。
「おう、純也」
鈴掛が、ノンビリとした声で手を挙げた。
「お前、緊張してなさそうだな?」
「え? 緊張してるっちゃしてるっす。全国大会の時と同じぐらいっすかね? だから、雄太と一緒に寝ようかと思って、俺の部屋から布団持ってきたんすよ」
鈴掛に問われ、純也はのほほんと答えた。そして、部屋の隅に置いておいた布団を敷き出す。
「純也って、強心臓だなぁ~」
梅野は笑い転げていた姿勢のまま、純也が敷いた布団の上にゴロゴロと転がり寝転がった。
「ちょっ‼ 梅野さんの部屋はここじゃないんだから、自分の部屋で寝てくださいよぉ~」
「純也のケチぃ~」
純也と梅野が布団の取り合いをしているのを、鈴掛は溜め息を吐きながら見ていた。




