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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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502話


 案の定、雄太がパドックに出ると罵声ばせいが飛んだ。職員が大声を出さないように注意をしていくが、アチコチから怒声どせいが飛び、何頭かの馬が耳を激しく動かしていた。


 それでも雄太は少し俯き加減ではあったが、しっかり前を向いていた。調教師の藤波は、苦々しい顔で雄太とハーティを見ていた。


(何て事だ……。こんな事が続けば、怪我人が出てもおかしくないぞ……。馬だって、レースに集中出来ないと言うのに……)

「藤波調教師(せんせい)

「慎一郎調教師(せんせい)……」

「儂等は、見守るだけしか出来ん」


 言葉少なに語る慎一郎を見て、藤波は頷いた。



 

 東京競馬場 10R 第40回安田記念 G1 15:35発走 芝1600m


 ハーティはやはり一番人気だった。しかも1.4倍と言う圧倒的なオッズで、どれだけの人々がハーティに期待をしているのかが明らかだった。


 本馬場入場してからも、スタンドからは罵声、怒声が飛んでいたが、雄太の耳には届いていなかった。


(集中してる雄太は、聞こえてねぇっての)


 返し馬をしながら鈴掛は呆れていた。もしかすると、無視をしていると思われ、火に油を注ぐと言う感じかも知れないと思いながらゲートに向かった。






(雄太くん……。頑張ってね)


 テレビの前で春香は両手を握り締めて祈っていた。バウンサーに座った凱央はガラガラを手に画面を見ていた。


「凱央、パパの応援しようね」

「ウバァ」


 ゲートに入っていく雄太の姿をジッと見詰める。


 ガシャンっ‼


 ゲートが開くと、スッとハーティは綺麗なスタートをきった。


 それだけで上がる大歓声に、ハーティがいかに人気があるかが伝わってくる。


(凄い……。カームとは違う凄さがある子だ……)


 春香は迫力のある走りに思わず息を飲む。何がどうと言われても、はっきり分からない。


 ハーティは、なぜか惹きつけられる魅力があった。雄太が騎乗しているからと言うのもあるが、目が離せなくなる。


(……たくさんのファンがいるのが分かるな……。魅力的で……強い子だ……)


 ハーティは、安定した走りで三番手辺りを駆けていた。


 カームの時も、それ以外の時も安心して見ている訳じゃない。競馬は負ける事のほうが圧倒的に多いからだ。


(ハーティ頑張ってっ‼ 雄太くんの為だけじゃない。あなたの為にっ‼)


 雄太をはじめとする騎手だけでなく、調教師の人達にも聞かされた。競走馬の全てが幸せな余生を過ごせる訳じゃないと。種牡馬、繁殖牝馬になれない馬がいる事や乗馬用にも誘導馬などにもなれず、引退後の行方すら分からない馬達の話を。


 願わくば、雄太の関わった馬には幸せな余生を過ごして欲しい。


(色んな事があったから、もう二度と雄太くんはハーティには乗れないかも知れないけど……。それでもっ‼)


 4コーナーを周り、直線コースに入るとハーティはグンッと前に出た。


「雄太くんっ‼ ハーティっ‼ 頑張ってっ‼」


 追いすがる馬達から少しずつ差を開けたハーティは一着でゴール板を駆け抜けた。


 場内に大歓声が響き渡る。テレビの画面に映る人達が腕を上げ、ハーティの勝利に酔いしれている。


(凄い……。こんなにたくさんの人達がハーティの応援をしていて……。ハーティが優勝した事を喜んでいる……。なんて……なんて凄い馬なんだろう……)


 しばらく動く事が出来ずに画面を見続けていた。




 

「やったな、雄太。おめでとう」

「はい。ありがとうございます」


 鈴掛が、雄太の世中をポンと叩く。


 ホッとした雄太の顔が、いつもとは違う安堵感に満ちていると感じた。


(これだけ色々ありゃあ、ホッとするよな……。レースも終わったし、これで騒動も落ち着くよな……)


 気疲れから少し痩せた春香は、今頃テレビの前で雄太の勝利を喜んでいるだろうと思う。


(……にしても、雄太め。何回、俺に背中を見せつけるんだよ。本当、凄いヤツだよ)


 勝利騎手インタビューに向かう雄太の背中を笑顔で見送った鈴掛だった。




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