表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

506/758

501話


 鈴掛は、眉間の皺が固定しそうなぐらいに顔をしかめた。


 デビューして数カ月しか経っていない新人達は、突然起きた想像もしなかった事態に青ざめ、控え室から恐る恐るパドックを見ていた。


(こんな事態の対処法なんて、競馬学校で教えてもらってないよな……? 教えてもらってたとしても、直ぐに動ける訳はないか……。何とか落ち着かせないと……)


 新人ルーキー達の事も気になるが、やはり『なぜ、このような事態になったのか』と言うのが一番頭に浮かぶ。


 犯人の目的が何だったのか分からないが、嫌がらせの手紙の件があったからか、憶測で考えては駄目だと分かっていても、つい疑ってしまう。


(まさかハーティファンじゃないだろうな……? 雄太にダメージを与えようと狙ってやったのかだとしたら……許せんっ‼)


 ふと思ってしまったら、その思考がとまらなくなる。


(ハーティ以外の馬はどうでも良いのかっ⁉ 雄太を傷つける為なら、他の騎手が怪我をしようがかまわないってのかよっ⁉)


 鈴掛は怒鳴りたい気持ちをグッと抑えるが、握った拳がフルフルと震える。


(俺が怒鳴っても状況が悪化するだけだよな……。落ち着け……落ち着け……。落ちたヤツは……?)


 落馬した騎手は大事だいじがなかったのか、馬から離れると、自分の体に触れたり、足踏みをするような仕草をしていた。


 暴れた馬を厩務員が必死になだめていた。引き綱をしっかり手にしながら、声をかけている。


(よく手を離さなかったな。手を離したりしてたら、マジで大惨事だったぞ)


 落馬した騎手は屈伸をして頷くと、厩務員が落ち着かせた馬に騎乗した。


(怪我は……なさそうか……? 無理すんなよ……? んで、雄太は……?)


 鈴掛は隊列が乱れに乱れた馬の中の雄太の姿を探した。まだ、落ち着かずにいる馬達の中で、しっかりと前を見ている雄太を見つけてホッと息を吐いた。


 落ち着いた馬から本馬場のほうに向かって歩いていく。


(良かった……。何とかなったみたいだな。……とりあえず、逃げたヤツがどうなったか……だな)


 馬も騎手も無事だったのは幸いだが、この後の事を考えると胃の辺りがキリキリと痛んだ。


(とりあえず、新人達ガキどもを落ち着かせなきゃな。動揺したままだと騎乗に影響が出る……)


 鈴掛は次のレースに出る若手から順に声をかけていった。




 2Rは無事にレースは終了したが、雄太は2番人気だったが十二着に終わった。パドックで暴れたりしてしまった馬は精彩を欠いて配当は荒れた。


 その次も雄太は着順は思わしくなく、普段冷静な雄太が手洗い場で頭から水をかぶっていた。


「雄太」

「鈴掛さん」


 雄太はゴシゴシと頭と顔をタオルで拭い、小さく息を吐いた。


「大丈夫だな?」

「はい」


 騎手を続けていれば、この先も同じような事があるかも知れない。覚悟を決めなくてはいけないと雄太は胸に刻んだ。


 大きく息を吸い込んで、着ていた勝負服を脱ぎ歩き出す背中を見て、鈴掛は少し安心した。


(もう大丈夫かな。本当、凄いヤツだよ。さて、俺も行くか。また、雄太の背中を見るのは嫌だからな)


 まさか、こんな事がG1のある日に起きるとまで思ってなかった。応援幕のように嫌がらせぐらいならあるとは思っていたが、ここまでの事が起きるとは想像が出来ずにいた。





 騎手控え室で、雄太は何度も何度も深呼吸する。


(大丈夫だ。落ち着け、俺。いつも通りにすれば良い。人間が何をしようと馬には関係はない。俺は、ハーティの能力を引き出せるように、精一杯の騎乗するだけだ)


 先程の騒ぎを起こした二人組が、どう言う意図を持って騒ぎを起こしたかは分かってはいない。


 今の雄太にとって大切なのは、次のレースに集中する事。


 ハーティグロウと言う能力のある馬の鞍上あんじょうを任されたのだから、馬主オーナーと調教師と世話をしてくれている厩務員達の期待に応える。


 それが騎手の仕事なのだと、雄太はキッと唇を結び、号令がかかるのを待っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ