4話
大人二人がヒソヒソと話しているのを見ると、雄太の不安は更に増して行った。
(先生は全治一ヶ月なんて言ってたけど、本当はもっと悪いんじゃ……。俺 もう馬に乗れないんじゃ……)
「雄太。ほら コーヒー買って来たぞ。飲むだろ?」
青い顔をして黙っている雄太に純也は缶コーヒーを差し出す。
「ソ……ル……」
押し寄せる不安と焦り。
そして絶望を感じさせる痛み。
喉がカラカラなのに気付くが飲む気にもなれず、受け取った缶コーヒーを両手で包み込む。
「サンキュ……」
雄太は親友が精一杯気遣ってくれているのを感じ少し笑った。
慎一郎は、ようやく顔を上げた息子にホッとした。
甘やかすつもりはないが、来月やっと十八歳になる雄太には辛い現実だろうなと思う。
(鍼灸で何とかなるか……?)
少し悩んで、ふと思い出した。
「なぁ鈴掛。お前や若い連中が、草津に神の手を持つ人が居るとかどうとか言ってなかったか?」
「あ……そうか」
鈴掛は呟くとポケットから財布を出して、ゴールドのラインが入ったカードと淡いラベンダー色の名刺を出した。
『東雲マッサージ 市村春香A1263202』
「市村 春香……。女性なのか」
慎一郎は名刺を覗き込む。
「ええ。若い子ですが腕は確かです。俺も治して貰いましたよ。ただし、今日居るか分からないし、今から行っても見て貰えるか分かりません。そもそも営業時間ギリギリですし……」
「とりあえず電話して貰えるか?」
慎一郎の頼みでは断れるはずもない鈴掛は公衆電話に向かう。
(神の手……。胡散臭いとは思ってたが、鈴掛が言うなら大丈夫だろう)
そう思いながら打ちひしがれている息子の元へ向かった。