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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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491話


 世間はゴールデンウィークの真っ最中。ニュースでは賑わっている観光地などが映っている。


「ゴールデンウィークかぁ〜」

「俺達には縁のない物だな」

「つい忘れるんですよね」

「俺だって、ニュースとかで見なきゃ忘れてるぞ」


 雄太と鈴掛は夕食をとりながら夕方のニュースを見ている。春香は、凱央を抱っこをして煮物の大根や人参をほぐして冷ましている。


(この仕事を選んだのは俺なんだけど……)


 自分もそうだったように、ゴールデンウィークだけでなく夏休みも、どこにも連れて行ってやれない事が気になる。


 凱央が大きくなれば、余計に思うのだろうなと考えてしまう。


「ウマァ〜」

「美味しい? 良かった」


 凱央が美味しそうに食べているのが嬉しい春香の耳には、テレビの音声は届いていないのだろう。


 春香のしていた仕事も、雄太と結婚してからも、世間が長期休みでも全く関係がない。


「なぁ、春香」

「なぁに?」


 雄太が声をかけると、春香は顔を上げた。鈴掛も春香を見た。


「どこか行きたい所ある?」

「え? 天皇賞終わったらデートする約束の話?」

「それとは別で」


 春香は、凱央の手が届かない場所に箸を置いた。


「ん〜。そうだなぁ……。あ、行きたい所あるよ」

「どこ?」


 春香が行きたい所があるならと、雄太は少し身を乗り出した。


「秋になったら、雄太くんの応援をしに競馬場に行きたい」

「……俺、ゴールデンウィークだからって事で訊いたんだけど……」

「へ? あはは」


 雄太の春香に何かしてやりたいと思う気持ちと、春香が雄太に一途なのを目の当たりにしたのは何度目だろうと思い鈴掛は笑いが込み上げてくる。


(凄いかみ合ってるなって思う時があるのに、このかみ合ってなささが笑えるんだよな。良い夫婦だよ、本当に)


「てか、雄太くんスケジュール一杯でしょ? 一日デートの日を確保するのにも大変なのに、『ゴールデンウィークだから遊びに行く』なんて無理じゃない?」

「うぅ……」


 唯一の休みの月曜日には、撮影など時間がかかる仕事が入る時が多い。調教終わりにも取材が入る。そんな状態で、二日も丸々休みの日を作るのは、どう考えても無理なのだ。


 しかもG1シリーズとなれば、雄太は出場するG1ごとに取材陣が訪れる事が多くなるのだから休みがなくても仕方がないのだ。


「騎乗依頼もらえるのはありがたいし、頑張るぞって気持ちになるけど、たまには春香と凱央と楽しみたいんだよ……」

「雄太くんの気持ちは分かってるよ。ありがたいって思ってる。でもね、雄太くんのお仕事最優先だからね? 言ったでしょ? 私は、雄太くんの夢の足枷(あしかせ)にはなりたくないんだからね?」


 ニッコリと笑いながら言う春香の腕を凱央が小さな手でペチペチと叩く。口の中にあった人参を飲み込み終えたのだろう。


 それに気づいた春香は箸を取り、大根を凱央の口元に近づけるとマクマクと食べた。


(雄太の夢の足枷になりたくない……か。春香ちゃんの覚悟って……凄いものだな。見た目、子兎かハムスターのような小動物系なのに、何でこんな覚悟が出来るんだ……)


 苦労に苦労を重ねたからだろうとは思う。


(否……。何よりも雄太への愛なんだろうな)


 ふと顔を上げると、雄太のスケジュールがビッシリと書かれたカレンダーが目に入る。


 騎乗依頼をもらい決まった物であったり、テレビやバラエティーの収録。厩舎の付き合いや馬主との付き合いも書いてある。


(こいつ……本当に人気騎手になったんだよな)




 食事を終え、ソファーで凱央をかまいながら、キッチンに立つ雄太達を見る。


「俺……春香と一緒の時間が……」

「ありがとう。雄太くんの気持ちだけで、私は幸せだよ?」

「春香ぁ……」


 まだ、春香と出かけたいと雄太は拗ねているようだった。


(マジおもしれぇ〜ヤツ。ありがとうな、雄太。春香ちゃん)


 結婚を失敗した鈴掛が、幸せいっぱいの雄太達を見ていてつらくなるかと思ったが、笑う事が多くて精神的に助かっていた。





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