489話
「雄太くんっ‼ 雄太くんっ‼ 雄太くんっ‼」
「うおっ⁉」
車を停めてドアを開けた雄太に、勝手口から走り出てきた春香が抱き着いた。
「凄かったっ‼ 格好良かったっ‼」
「うん。とりあえず落ち着けって」
「だって嬉しいんだもん。雄太くんが天皇賞勝ってくれたんだもん」
ピョンピョンと飛び跳ねる春香をヒョイと抱き上げる。ピンクの頬をした春香は抱き上げられたまま、雄太の頭を抱き締める。
ちょうど胸が顔の辺りになってしまい、久々の巨乳プレスに雄太はウハウハしてしまった。
(あ〜。……柔らかい〜。たまんないなぁ〜)
「やっぱり天皇賞の春って長丁場だから、ドキドキしちゃうね。私、途中で息をするの忘れてたぐらいだよ。カームも頑張ってたし、また人参あげなきゃね」
春香の豊かな胸は妊娠出産で更に大きくなっており、時間が経つにつれ雄太はだんだんと息が苦しくなってきていた。
「雄太くんは凄いよ。天皇賞だけでも三つ目だなんて。格好良いだけじゃない雄太くんが大好き」
「は……春香……。おっぱいで……息が出来ない……」
「ふわぁっ⁉」
春香は、喜びでテンションが上がり過ぎて、思いっきり顔に胸を押しつけていた事に気づかなかったのだ。
体を離し、雄太の顔を覗き込む。
「プハァ〜。ありがとう、春香。ちょっと声が枯れてるのは、そう言う事だよな?」
「あは。だって頑張って欲しくて応援しちゃってたんだもん。だから、嬉しくて嬉しくてどうしようもなく嬉しくて嬉し過ぎたの」
「嬉しいのは分かったけど、語彙力がブッ飛んでどっか行ってるぞ?」
「え? あ、うん。えへへ」
照れ笑いを浮かべる春香を下ろし、思いっきり抱き締める。春香は雄太の胸に頬を寄せ、ネックレスに手を当てた。
「インタビューが終わった時、これに手を当ててくれてたよね」
「ああ」
「雄太くん、レースが終わるまで私の事も忘れちゃうって知ってる。でも、レース終わったら、一番に思い出してくれてるんだなって思ったら嬉しかったの。ありがとう」
二人で考えた結婚指輪。指にはめていなくとも、いつも一緒にいる証だ。
ニッコリと笑うと背伸びをして雄太にキスをする。
(春香が喜んでくれる……。きっと誰よりも無垢な心で……)
春香からのキスを受け止めながら、雄太は幸せを噛み締めていた。
風呂を終えた雄太は、ダイニングテーブルの上を見て笑みが溢れた。
「えへへ。嬉しくて、ちょっと奮発しちゃった」
「ちょっと? かなり……だぞ?」
「だってぇ〜」
今回は、海鮮がところ狭しと並んでいた。
刺し身や寿司、お吸い物に茶碗蒸し。
「河豚刺しまであって、ちょっとじゃないぞ?」
「お寿司屋の大将が、ちょうど良いのあったからって」
「ありがたいな」
「うん」
鮭やイカで細工した花が咲き誇っている。
(大将……。ありがとうございます。本当、綺麗だなぁ……)
ベビーベッドから抱き上げると、凱央はフニャ〜っと笑顔を浮かべた。
「ただいま、凱央。パパ、頑張ったぞ」
「ウバァ〜ウキャウ〜」
「そっか。喜んでくれるんだな」
春香がニコニコと笑いながら、凱央を受け取る。
「凱央、茶碗蒸し食べようね〜」
「そう言えば、少しずつだけど凱央の離乳食進めてるけど、夜はしっかり寝てるのか?」
「そうだね。母乳だけだとお腹が減るの早いから起きちゃうけど、少しでも食べると起きる間隔が長くなるみたい」
雄太は座りながら訊ね、春香は小皿に入れてた凱央用の茶碗蒸しの温度を確かめる。
「うん。もう大丈夫みたい」
「そうか。じゃあ、いただきます」
「いただきます」
そう言って春香は椅子に腰かけて、茶碗蒸しを凱央の口に運ぶと、チュルンと凱央は美味しそうに茶碗蒸しを食べた。
ゆっくりと食事を楽しみ、雄太は恒例のサインをして、エレベーターで凱央のベビーベッドを地下の雄太の部屋に運んだ。
ベッドに横になった雄太は、春香にマッサージをしてもらい二日間の疲れが抜けていくのを感じていた。




