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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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479話


 純也と美代は、多少話し慣れているからか、流行りのアーティストの話をしていた。


(本当に普通と言えば普通なんだよな……。その辺にいる普通の女の子……。そんな子が実の父親を金づるにしようとか考えるんだろうか……?)


 雄太の中では、鈴掛に金の無心をしているのは、母親……鈴掛の元妻であるという気がしていたが、やはり名乗った時の奇妙な間が気になった。


(鈴掛さんの娘だと分かっている俺に、鈴掛美代と名乗る事に抵抗があるとは思えないんだけどな……)


 そんな事を考えながら、ふと腕時計を見て時間を確認した。


「鷹羽さん、その腕時計格好良いですね」


 ふいに、美代が声をかけてきた。


「え? ありがとう」

「その腕時計は、雄太のお気に入りだもんな。うらやましい」


 雄太が笑って礼を言うと純也がしみじみと言う。


「うらやましい? 高い腕時計なの?」

「まぁ、値段もだけど、雄太の奥さんが結婚前にプレゼントしてくれたんだよ」

「奥さんの……プレゼント……」


 純也の言葉に、美代の顔が険しくなる。


「どうしたの? 美代ちゃん」

「……鷹羽さんって、塩崎さんと同い年でしょ? それなのに、奥さんからのプレゼントを大切にしてて……。パパと同じぐらいに結婚したのに……」


 それまでの女の子らしい声とはまるで違う低い声で話す。


「パパは……ママの事を大事にしなくて……ママのお腹に私がいても、ちっとも家に帰ってこなかったって……」


 その言葉は、雄太の胸に刺さった。春香が妊娠しても遠征はあったし、週末になると留守にしていたのだから。


「ママが淋しいって言っても、体調が悪くても家にいなかったって言ってた……。どれだけお願いしても、パパは家にいてくれなかったって言ってた……」


 慎一郎が雄太に言っていたように、鈴掛の元妻は騎手と言う仕事を理解していなかったのだろう。


 雄太も純也も言葉に詰まる。『騎手の妻というものは』という話をして、美代に理解が出来るだろうかと思った。


「……パパはママより好きな人がいたんでしょう?」

「え?」

「は?」


 美代の言葉に、雄太も純也も耳を疑った。


「ママは、いつも言ってた。パパは浮気をして私とママを捨てて出て行ったんだって。だから、電話もしてこなかったし、手紙も一度も送ってこなかったって」

「それは……きみのママが言ってたの……?」


 声が震えそうになりながら、雄太は美代に訊ねた。


「うん。ママは何度も言ってた。パパからは……えっと……養育費……? も、なかったんだって」

「鈴掛さんは……浮気なんてしてないよ? 養育費だって払ってた」

「どうして鷹羽さんが分かるの? 私が生まれる前の話だよ? その頃、鷹羽さんって、今の私ぐらいの歳でしょう? パパの事を知ってた訳じゃないでしょう?」


 父親よりも母親の言葉を信じている美代の目は、純也が言っていた鈴掛を見る目が冷たいと言っていた事を物語っていた。


「俺の父が言ってたんだ。きみの……」

「嘘よっ‼ そんなの嘘。浮気して私とママを捨てたパパなんて要らない」


 テーブルの下で握り締めた雄太の拳が震える。


 自分の都合の良いように話を歪めた元妻に怒りがこみ上げる。そして、母親の言う事を鵜呑みにしている目の前で雄太を睨む美代にも。


(落ち着け、俺……。怒鳴っても意味はない……。けど……)

「なら……どうして鈴掛さんと会おうと思ったの? 浮気してきみとママを捨てたパパだろ?」


 フゥと息を吐いた純也が、真剣な顔をして美代に問いかけた。


「それは……ママがパパが会いたがってるって言ったからよ。私は会っても仕方ないって思ってたけど、パパに会ったらママはお小遣いくれたし」

「お小遣いの……為?」

「友達と遊びに行くのにもお金が要るもん。カラオケとか」

「お嬢様学校でも友達とカラオケ行くの?」


 美代が不思議そうな顔をした。


「私、普通の公立の学校だよ?」

「え?」


 またもや鈴掛から聞いた話と違う話に雄太も純也もバクバクと心臓が早鐘を打った。





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