465話
翌日、調教を終えた雄太は風呂に入り、鷹羽の家に向かった。
「父さん、母さん。ただいま」
「こんにちは」
慎一郎もトレセンから戻ってきていて、リビングでくつろいでいた。
「お義父さん、お義母さん。アルバムを持ってきました。それと、これ良かったら召し上がってください」
春香が、アルバムの入った紙袋とビニール袋を差し出した。
「あら、ありがとう」
「アルバム待ってたんだ。で、今日のは何だね?」
理保は春香から受け取った袋の中から、次々とタッパを取り出す。慎一郎はアルバムを大切そうに受け取る。
「これが、牛肉の大和煮。それと、菜の花の辛子和えと卯の花です」
「あら、良いわね」
春香が笑顔で答えると、慎一郎が物欲しそうな顔で理保を見た。それに気づいた理保と雄太が呆れたような顔をする。
「あなた……」
「父さんって……そんなに食い意地張ってたか……?」
二人に言われ、慎一郎は恨みがましい目をしながら反論をする。
「雄太、お前失礼だな。味見だ、味見」
理保は、笑いながら小皿などを出そうと食器棚に行こうとして、雄太が凱央を抱っこしたままなのに気がついた。
「和室に行きましょうか? ここだと、ずっと凱央を抱っこしてなきゃならないし」
「ん? あ、そうだな。理保、ストーブを点けてきてやりなさい」
理保は和室へ向かい、慎一郎は食器棚を開け小皿などを取り出した。
その様子に、雄太は唖然として眺めていた。それに気づいた慎一郎が不思議そうな顔をする。
「何だ?」
「否……。縦の物を横にもしない父さんがな……って思ってさ」
「お前……つくづく失礼だな」
不機嫌そうな顔をした慎一郎は、失礼な事を平然と言う雄太を見ながら言った。
和室が温まり、雄太達は和室に移動した。
慎一郎のゴロ寝用の長座布団に凱央を寝かせて、炬燵に入った。
「で、話とは?」
慎一郎は、タッパを開けて取り箸で小皿に菜の花の辛子和えを盛る。
「ああ。ここの風呂場を新しくしようと思うんだ」
「え? 風呂をか?」
雄太は、リフォームの説明をしていく。
「でな、風呂場を改装している間はうちに来てくれたら良いから」
「ぜひ、いらしてください」
雄太達に言われて、慎一郎達は顔を見合わせた。
「もしかして……嫌なのか? リフォームが? うちに来る事が?」
焦った雄太が訊くと、慎一郎は首を横に振った。
「違う。そうじゃない」
「じゃあ何だよ?」
「うちの湯船は昔のだし、入り難いだろう? だから、近いうちに取り替えたほうが良いかなと理保と話してたんだ」
「そうなのか? なら、良いんだよな?」
雄太が確認すると、理保が心配そうな顔で雄太達を見た。
「その……ね。あなた達、家を建てたばかりでしょう?」
「大丈夫だよ。春香も心配ないって言ってるし」
「春香さん……」
雄太に訊ねた理保は、ゆっくりと春香を見た。
「そんな事を気になさらないでください。雄太くん、頑張ってくれてますから」
「そうだよ。風呂のリフォームも、俺達の家に来る事も嫌じゃないなら、さ」
慎一郎と理保は、息子夫婦の申し出をありがたく受ける事にした。
ただ、騎手と調教師では起きる時間が違っているから、風呂は雄太の家で入り自宅で休むと言う事にした。
「うん、ならそう言う事で。リフォーム会社に来てもらえるように連絡しておくから。遠慮して変に安いのにしないでくれよな? 金額なんて気にせずに、父さんと母さんが良いと思う物を注文してくれて良いから」
「分かった。ありがとう、雄太。ありがとう春香さん」
「ありがとう。雄太、春香さん」
慎一郎と理保は、雄太と春香の心遣いが嬉しく思った。
後日、今後の事も考えてしっかりリフォーム業者と相談をして、滑りにくい床や各所に手摺りをつけてもらうようにした。
慎一郎と理保の要望は雄太にも伝えられた。
(うん。これなら大丈夫だよな)
初めての大きな親孝行に、ホッとしていた雄太だった。




