464話
翌日、調教の合間や休憩時間にリフォームをした事がある人を探し、良さそうな業者を教えてもらった。
家を建てたばかりなのにリフォーム業者を訊ねた事で驚かれたが、実家のリフォームをしたいのだと言い、慎一郎には内緒にしておいて欲しいとお願いしておいた。
(とりあえず業者はあたりがつけられたし、父さん達に話して……)
雄太が歩いていると、あちこちから声がかけられる。
「雄太ちゃん、いいところで会った。これ食べてくれ」
「お? 鷹羽くん。春香さんと凱央ちゃんは元気かい?」
週末の予定を訊かれる事があるのが日常だ。
「鷹羽くん、25日の中京空いてる?」
「すみません。25日は中山なんです」
「あ〜。そっか。また今度頼むよ」
「はい。お願いします」
騎手は依頼をもらわなければ意味がない。愛想が良く、騎乗技術があるのだから依頼は多い。
(依頼が来るのは嬉しいけど、断らなきゃなんないのはなぁ〜)
そんな事を考えながら、差し入れとしてもらった大きな春キャベツと新聞紙に包まれた菜の花を抱えながら歩いている。その様子が楽しそうで相変わらずだと、皆が微笑ましく見ていた。
自宅に戻り春キャベツと菜の花を受け取った春香は、満面の笑みを浮かべてキッチンに向かった。
「美味しそうだね〜」
「菜の花食べたいな。直ぐに出来るのってあるか?」
「うん。おひたしと辛子和え、どっちが良い?」
「辛子和えかな」
「分かった。じゃあ、作るね」
春香は鼻歌まじりで菜の花の下ごしらえを始め、雄太は凱央の寝顔を見てから風呂へ向かった。
「良いリフォーム会社さん教えてもらえて良かったね」
「ああ。後は、父さん達と話してリフォームの予定とか決めるだけだな」
「うん」
菜の花の辛子和えをパクリと食べて嬉しそうな顔をする雄太を見て、春香は幸せな気持ちになった。
(雄太くん、人参以外に嫌いな物がなくて楽だなぁ〜。私の作るオシャレじゃない田舎料理でも喜んでくれるんだよなぁ〜)
春香も菜の花を口にする。
「あ、風呂のリフォームってどれぐらいの時間がかかるんだろ? 俺、訊き忘れててさ。春香、知ってる?」
「重幸おじさんのところがお風呂場全部リフォームした時、5日か6日ぐらいだったかな?」
「そっか。まぁ、アルバム持って行って、その時にリフォームの話をすれば良いよな」
「うん」
慎一郎も理保もアルバムを楽しみにしているだろう。
「東雲の家には、いつ持って行く?」
「あ、お父さんが今日取りに来たんだよ」
「へ?」
「今朝、アルバムが出来たから持って行くよって電話したの。そしたらね、お父さんたら待てなかったみたいで、お昼休みに取りに来たんだよ」
直樹らしいと雄太は思った。当日参加していたのに、アルバムを見たくてたまらず、ウズウズしていたのだろうと想像すると笑みが溢れた。
「お義父さんらしいな」
「ふふふ。アルバムを見て、凱央をかまってたのね。で、お母さんから『昼休みは、とっくに終わってるでしょ』って電話がかかって来たの」
里美に叱られ、ペコペコと謝っている直樹が目に浮かぶようだった。
「プッ」
「私何度も『時間大丈夫?』って訊いたんだよ? でも、うんうんって生返事しててさ。お母さんにお説教されて渋々帰ったんだよね。爺バカだよねぇ〜」
春香は呆れたような顔をしながら、笑っていた。
「爺バカなのは、父さんも一緒だぞ? アルバムを待ちきれなくて、まだか〜まだかぁ〜って俺に訊いてきてたんだから」
「お義父さんも?」
「仕事中だから、こっそりと俺を物陰に引っ張って行ってさ」
「お義父さんたら」
調教の合間や昼休憩、慎一郎が雄太を見かけるたびに、物陰で訊ねたりしているのを想像すると、春香はおかしくて笑ってしまった。
「仕事中だってのにな。堅物な父さんが、孫一人であんなになるなんて思わなかったよ」
「ありがたいね。凱央の事に夢中になってもらえて」
「まぁ、そうだな」
明日は菜の花の辛子和えを持っていってやろうと思った雄太だった。




