第2章 厳しい現実と夢への一歩 45話
月曜日
雄太は鈴掛と東雲に訪れていた。
「土日、結構ハードだったから全身解してもらうけど、俺が終わるまで お前はどうする?」
受付をしながら鈴掛が雄太に訊く。
里美が、鈴掛と雄太からカードを受け取りパソコンの画面をチェックする。
「鷹羽さんは足のチェックだけだし、10分~15分ってところね。鈴掛さんは60分コースだし、終わるまで……」
「VIPルームで話してたら良いんじゃないですか? 予約入ってないですし。ね、鷹羽さん」
里美が『待ち合いで待っていれば良いわ』と言おうとしたのを、出迎えていた春香がニコニコと笑いながら遮る。
「さぁ、鷹羽さん。行きましょう」
春香に促され、雄太は里美にペコリと頭を下げるとVIPルームへと歩き出した。
二人の背中を見ながら
「春香ちゃん、感じ変わりましたね?」
と鈴掛が呟く。
「愛想が良くなったのは良いんだけど……」
里美が小さく溜め息を吐く。
(ん~。里美先生の複雑な顔は……。やっぱり、あの会計は春香ちゃんの独断っぽいな……)
鈴掛は、雄太と春香を何とも言えない思いで見詰めた。
VIPルームのドアは全開でストッパーが掛けられていた。
(これって……)
雄太は、チラリと隣を歩く春香を見た 。
今日の雄太は車椅子ではない。わざわざ、ドアを全開にしていなくても良いはず。
雄太がVIPルームに入ると、春香は当たり前のようにカーテンをシャッと閉めた。
(やっぱり……)
気を使わせている事を謝ろうと、雄太が春香を見ると
「じゃあ、足のチェックしましょう。それと、また色々と教えてもらっても良いですか?」
と笑顔で言われ、謝罪の言葉が出なくなった。
(この人は……)
十五歳から多くの人々に『神子』と呼ばれているのに、それを驕る事もなく、多額の金を提示されても揺るがない強さと人を気遣う優しさを持ち、真摯に仕事に向き合っている。
(何て……何て大きな人なんだろう……。俺なんかが好きになっても良い人なんだろうか……? でも……俺は市村さんが好きだ……)
時間にすれば、たった数時間しか顔を合わせていない。
それでも、どうしようもなく惹かれていると雄太は自覚した。
(けど、まだだ……。俺は、まだ夢への第一歩を踏み出してもいない……)
「良いですよ。何でも訊いてください」
「はい」
春香は笑顔で最終チェックを始めた。




