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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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452話


 2月17日、阪神競馬場で三勝を上げた雄太はレースを終えると小倉へと移動した。


(ふぅ……。移動は疲れるけど、三つ勝てたし良かったな)


 遅くなったが、小倉競馬場の調整ルームに入り、食堂で一息ついていた。


(……静かだな。静かって言うか、普段の俺達が騒がし過ぎるんだな。特にソルが)


 梅野も賑やかなほうではあるが、一番騒がしいのは純也であるのは周知の事実である。


 栗東所属の騎手だけでなく、美浦の騎手達にも『塩崎がいないと静かだよな』と笑われるぐらいである。


(ソルは愛されキャラだもんな。場が明るくなるし、和ませるよなぁ〜)


 その純也は土曜日は小倉で騎乗をしており、日曜日は阪神での騎乗がある為に入れ違いになっていて、今週末は顔を合わせていない。


 静かだとは思うが、やはり少し淋しく思うのは長い付き合いで、一緒にいない時間と言うのが少なかったからかも知れない。


(ま、仕方ないよな。三場開催だしな)


 東京と阪神と小倉の三場開催。鈴掛は二日間東京。梅野は阪神から東京へ移動していた。


 月曜日には、またお互いの騎乗やレース結果を話すんだろうなと考えているとおずおずと後輩達が近寄ってきた。


「あの……鷹羽さん、お疲れのところすみません。ちょっと良いでしょうか?」

「騎乗の事で相談したい事があるんですけど……」

「え……。あ、良いよ」


 ホッとした顔を浮かべて、前の席に腰をかける後輩達を見回す。


 普段、鈴掛や梅野といる事が多いからか、自分が先輩であると言う事を忘れてしまうが、既に雄太には後輩がいる。


「あのですね、前壁が出来た時なんですが……」

「ゲートに入った時に、馬が暴れてしまって……」


 順番に訊ねてくる後輩達に分かりやすいように説明をする。


 気がつけば、周りには後輩達だけでなく、美浦の騎手達も遠巻きに聞き耳を立てていた。




(なんだかんだで、結構長時間喋ってたな)


 小倉に着いたのが遅かったのだが、目を輝かせて真剣な顔をして質問をしてくる後輩達を邪険にする気になれずアドバイスをしていた。


 布団を敷いて、バッグからミニアルバムを取り出す。


(春香……。凱央……)


 今頃どうしているだろうかと思いながら時計を見る。


(もう寝たかな? 明日も無事を祈っててくれよな、春香)


 ネックレスに通した結婚指輪に手を添えて春香の笑顔を思い出す。


 


「ほら、凱央。パパだよ。格好良いね〜」


 雄太が布団に入り、春香と凱央の写真を眺めている頃、春香は凱央を抱っこしながらリビングを歩いていた。


「アブゥ……アムゥ……」


 いつもなら凱央は寝ている時間だがおっぱいを飲んだ後も目がパッチリとして眠そうではないからと、雄太のレースのビデオを流していた。


 初めてG1を獲った菊花賞のビデオを見ながら、プロポーズをされた時の事を思い出していた。


「パパね、このレースを勝った後、プロポーズしてくれたんだよ。格好良かったなぁ〜。嬉しくて、ママ泣いちゃったんだぁ〜」

「アゥ……ダァ……」


 どんどん忙しくなり、一緒に過ごす時間が少なくなているから、過去のレースビデオを見る事が増えている。


 調教や遠征やレースだけでなく、雑誌のインタビューやテレビの出演もある。


「一緒にいたいなんてわがままは言えないよね。こんな立派な家も建てたし」


 菊花賞を見終わり、鮎川の密着取材のビデオに入れ替える。


 自分がいない時の雄太を見る事が出来るこの番組は大好きだった。何度も見るとテープが痛むからとダビングしてある。


 だから、ビデオテープの量はかなりの本数がある。見る用と保存用だ。


「やっぱり格好良いなぁ〜」


 レースでは雄太ばかりが映る訳じゃないから、密着取材で馬に乗る雄太のアップが多く見られて、春香のお気に入りだ。


 番組の半分を見た頃、凱央が大きな欠伸をする。


「もうおネムかな?」

(雄太くんも、もう寝たかなぁ〜。明日も気をつけてね)


 離れていてもお互いを思っていた雄太と春香だった。




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