451話
2月14日(水曜日)
「えっと……もう固まったかな……? 大丈夫だと思うんだけど……。心配だなぁ……」
春香は冷蔵庫を開けて確認をする。雄太が出勤してから、キッチンにこもりプレゼント用のチョコレートを手作りしていた。
数日前の事。いつもなら雄太好みのチョコを買いに行っていたのだが、初めて手作りをしようと考えたのだ。
(チョコを溶かして固める……。ん〜。それだけじゃ……あ)
春香が目を留めたのが『生チョコの作り方』だった。
(作った事がない私でも出来そう。雄太くん喜んでくれるかな)
今でも雄太に恋をしていると自覚した頃と変わらない。
騎乗しているところやレースの録画を見ている雄太を見るとドキドキして頬が熱くなる。
(雄太くん……、格好良い……)
結婚をして、子供も生まれたと言うのに、それでも雄太を見ると好きの気持ちがどんどんと増えてくるのだ。
「ちゃんと出来てる〜。良かった」
出来上がった生チョコを一口大にカットしてからココアを振り、可愛い箱に詰め、ピンクと赤の細いリボンをかける。
(えっと……ハサミの裏でこうするんだよね……。うわぁ、可愛くなったぁ〜)
細めのリボンがクルクルとカールをして華やかさが増す。リボンにメッセージカードをはさんでいると、雄太が帰ってきた。
「あ、雄太くんだぁ〜」
春香は、生チョコを冷蔵庫にしまうと雄太を出迎える為に玄関へと向かった。
風呂を終えた雄太がリビングに入ってくると、春香はアイスコーヒーをテーブルに置いた。
「あ、ありがとう」
「今日もお疲れ様。えっとね」
「うん?」
春香は背中に隠していた生チョコの箱をそっと差し出した。
「今日、バレンタインデーでしょ? でね、今年は手作りしてみたの」
「て……作り……? え……マジで……?」
「うん。初めてだから大丈夫かなって思ったんだけど……え?」
小さな箱を手にして感極まった雄太が、春香をヒシと抱き締める。
「めちゃくちゃ嬉しいっ‼」
「えっと、えっと。喜んでくれて嬉しい」
春香も雄太の体に腕を回して、胸にスリスリと顔を擦り寄せ甘える。
雄太は抱き締めた春香の体温を感じながら髪を撫でた。
「俺、チョコの作り方とか分かんないけど、凱央がいるのに作ってくれたのが嬉しいんだ。ありがとうな、春香」
「うん。食べる前から、こんなに喜んでもらえて嬉しいな」
「飯前だけど……食べても良いか?」
少し考えて雄太は春香の顔を覗き込んだ。
「うん」
春香が頷くと、雄太はキスをして春香の手を引いてソファーに並んで座った。
テーブルに箱を置いて、リボンに手をかける。スルスルと解いて箱の蓋を開けると、一口大の生チョコが綺麗に並んでいた。
「これ……ココア?」
「そう。えっとね、生チョコなんだよ」
「生チョコ? 俺、初めて食べるかも」
雄太は添えてあるプラスチックのピックを手にして生チョコに刺した。
(え? 柔らかい……? これが生チョコ……)
ピックに刺さった生チョコを持ち上げて口に入れる。トロリと口の中で溶けていくほろ苦いチョコを味わう。
ドキドキとしながら春香は雄太を見詰めた。
「うまぁ……。これ、良いな」
「良かったぁ〜」
胸の前で手を握って春香は満面の笑みを浮かべた。
「本当、ありがとうな」
「うん。喜んでもらえて、私も嬉しい」
ほんのり頬をピンクに染めた春香が愛おしいと思った。
(可愛いな……。春香は何年経っても可愛い……。一生懸命、俺が喜ぶようにって考えてくれてる春香が好きだ……)
ニコニコと笑っている春香の肩を抱き寄せて、もう一度キスをする。
「こんなに美味いチョコもらえたんだから、ホワイトデーは俺も色々考えなきゃな。何が良いか考えてリクエストしてくれよな?」
「うん。お誕生日でもあるんだし、雄太くんも何が良いか考えておいてね」
「ああ」
きっと、可愛いおねだりがくるのだろうなと思いながら、雄太は春香を抱き締めた。




