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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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450話


 凱央の宮参りが無事に済んだ事で、雄太は気持ちを新たに翌日から調教やトレーニングに励んだ。


 紐銭をもらった人達に、こっそりと礼を言うと皆が、改めて凱央の健やかな成長を祈ってくれた。


(春香の為、凱央の為。責任が重くなった分も頑張ろう。俺が、春香と結婚するって決めて、早く子供が欲しいと思ったんだから……)


 まだ思うように勝てない事にモヤモヤとした気持ちがなくなった訳ではない。それでも、前向きな気持ちでいっぱいだった。




(えっと……週末は阪神の後小倉だし……)


 予定表を確認して、騎乗馬の様子を見に各厩舎に行く。


調教師せんせい、この子どうですか?」

「おう、良い感じだしいけそうだぞ」


 毛艶などを見たりしながら歩いて見回って行く。


 ふと、春香が早くトレセンに行きたいと言っていたのを思い出す。


(馬の匂いが恋しいみたいに言うんだもんなぁ〜。騎手でもないし、俺みたいにトレセンで育ってた訳でもないのにさ)


 2月のトレセンは、まだまだ寒い。時折、雪が降る時もあり薄っすら積もる時がある。凱央を連れて出るには寒い。


 春香の手編みの帽子に手をあてる。厩舎周りをしている時はありがたく思う。


「雄太ぁ〜」

「梅野さん、お疲れ様です」

「お疲れぇ〜。もう終わりかぁ〜? ちょっとコーヒーでも飲まないかぁ〜?」

「寒いですし、行きましょうか」


 二人でスタンドに向かう。歩いているとチラチラと雪が舞ってきた。


「お? また降ってきたなぁ〜」

「本当だ。空は明るいですし、積もるって感じじゃなさそうですね」

「だなぁ〜」


 二人で見上げて、空の贈り物がヒラヒラと舞い降りてくるのを見ていた。




「宮参りの時の写真、アルバムにしてもらうように手配してあるからなぁ〜」

「あ、はい」


 宮参りの時、梅野は本当にたくさんの写真を撮ってくれていた。


 雄太は、鷹羽家と東雲家。そして、自宅の分の三冊アルバムにしておこうと思っていた。


「現像が終わったら、写真を選んでくれよなぁ〜?」

「はい。楽しみですよ」

「楽し過ぎて、撮り過ぎたかもなって思ってんだよぉ〜」

「梅野さん、生き生きしてましたよ?」


 温かなコーヒーを飲みながら、宮参りの日の事を思い出す。


「俺、写真を撮ってるとワクワクするんだよなぁ〜。その一瞬一瞬を切り取って残しておけるってのがさぁ〜」

「前も言ってましたよね。流れていく瞬間を残しておけるのが良いんだって」

「……その瞬間って、凄く貴重だし戻って来ないからさぁ……」

「え?」


 隣を見ると、梅野がコーヒーの湯気をジッと見ていた。


「んでさぁ〜」

(え? 梅野さん……?)


 梅野はニィっと笑うと、ゴクリとコーヒーを飲んだ。


 雄太は梅野の切なげな顔が気になったが、周りに何人も人がいるので訊くことをはばかられた。


「直樹先生がさぁ〜。宮参りの写真をメチャ楽しみにしてるって言ってくれててなぁ〜」

「え? あ、はい。俺にも、そう言ってましたよ」

「雄太にも言ってたかぁ〜? 俺、ワクワクして待っててもらえるのが凄く嬉しいんだよなぁ〜」


 レースの時や調教の時と違って、趣味の話をしている時の梅野は少年のような顔をしている。


(春香が俺のサインをもらった時とかの顔と似てるんだよなぁ〜。好きなものに向かい合ってる時って、みんなこんな感じなのかなぁ〜?)


 雄太自身がそうなのは気がついていない。どれだけの人達に雄太は少年のままだと思っているか。


「春香も、凄く楽しみって言ってましたよ。自分以外の目線の風景が見たいって」

「そりゃ、春香さん達の後ろから見た景色は春香さんには見られないからなぁ〜」


 自分の目線ではない自分を見られるのが写真の良いところだ。


「そうですね。自分は自分を見られませんし」

「きっと、雄太が思ってる雄太じぶんと春香さんが見てる雄太は違うんだよぉ〜」


 自分が思う自分。春香が見ている自分。出来れば、春香の思うような自分でありたいと雄太は思いながらコーヒーを飲み干した。




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