449話
祝着の紐にたくさんの紐銭をつけられた凱央を抱いた理保は目を潤ませながら幸せいっぱいだった。
(嬉しくて嬉しくて……胸がいっぱいだわ……)
19歳と言う若さで結婚をした息子の可愛い可愛い息子が腕の中で、泣く事もなく、綺麗な目で自分を見上げている。
「アブワァ……。ウブゥ……」
「はいはい。もう少しで終わるからね」
そんな凱央と理保の姿や神妙な顔をした慎一郎や直樹達、真っ直ぐに前を見ている雄太達の姿を撮影している梅野は巫女さんの視線を釘付けにしていた。
「理保さん、慎一郎調教師。ここで、一枚撮りましょうぉ〜」
「雄太、春香さん。この馬の像の前に立ってぇ〜」
「直樹先生、里美先生。こっちで一枚〜」
「理保さん。紐銭を撮っておきたいので後ろ姿を撮っておきましょうぉ〜」
何本もフィルムを入れ替え、生き生きと写真を撮っている梅野の姿を見ていると、格好良いなと雄太は思っていた。
凱央は帰りの車の中で少しグズったが、自宅に戻りオムツを替えてもらいおっぱいを飲むとスヤスヤと眠りについた。
「たくさんの紐銭いただけて、凱央は幸せ者だな」
リビングにもってきたベビーベッドで眠る凱央の頭をそっと直樹は撫でた。
「うん。私、お昼の準備するから、お父さんは凱央を見てて」
「ああ」
商店街の寿司屋から届いた寿司が大きなテーブルにドドンと置いてある。
(えっと、お吸い物と茶碗蒸し作って……)
昨夜から下ごしらえをしてあったから、そんなに時間はかからないと作り始める。
慎一郎と鈴掛は、春香が言うところの貧乏漬物とキンピラごぼうを肴にチビチビと日本酒を呑んでいる。
梅野と純也は雑誌を広げて、流行りの服を見ながらあれこれと話している。
里美と理保は雄太の運転で鷹羽家に行っている。二人は洋服に着替え、そのまま着物を交換すると言う。
広々としたリビングとダイニングで、皆が思い思いの場所でくつろいだり、話している事が何とも言えない嬉しい気持ちがわいた。
(雄太くんのおかげだよね。こんなたくさんの人達がいる空間に私がいるなんて考えた事もなかった……)
雄太達が戻ってきて、少し遅めの昼食をとった。
「おぉ。春香さん、この茶碗蒸し良い味だな」
「お義父さんのお口に合って良かったです」
慎一郎に褒められ嬉しそうに春香が笑う。
「あれ? 春香ぁ〜、あの白菜の漬物なかったか?」
雄太が冷蔵庫にいき、中を見回す。
「あ、さっき……」
「儂と鈴掛が食べきったぞ」
「あぁ、美味かった」
春香が答える前に、慎一郎と鈴掛が答えた。
「え……」
「あ、あれあったんだ? 俺も食べたかった。えっと……貧乏漬物だっけ?」
「「貧乏……漬物……?」」
唖然とする雄太と残念そうにしている純也を慎一郎と鈴掛が見て目を丸くする。
「春、貧乏漬物って名前を変えろって言ったのに」
「だってぇ〜」
直樹のツッコミに春香が苦笑いを浮かべる。
理保は里美に貧乏漬物の説明を訊き、くすくすと笑う。
「里美さん、良い子育てされたんですね」
「名付けのセンスは直樹似で駄目だったみたいですけど」
「ふふふ。名前はどうであれ、工夫して、食べ物を大切にするのは良い事ですね」
「ええ」
母親二人は向かい合って楽しそうだ。
(良いな、こんな感じ……)
両家の親達、先輩達と親友。皆が楽しそうに笑いながら一緒に食事をしている。
純也が連泊したいと言った時も思ったが、たくさんの人がこられる家を建てて良かったと思った。
(何より春香が嬉しそうだ)
たくさんの人が来てくれても、春香が笑ってくれなければ何の意味もないと思っていたのだ。
一人でも多くの人達に、春香の良さを分かってもらいたいと思っていた。その春香との子供、凱央の為に寄せられたたくさんの紐銭が、ただただ嬉しかった。
凱央の宮参りは無事に済み、雄太はますます大黒柱として頑張っていかなければならないと決意を硬くした。




