44話
「ん~。それにしてもだ。何をどうしたら、この金額になるんだ?」
鈴掛は、二重線で消された後に書かれた『18.000円』を指差す。
「さぁ? そもそも『学割』なんてなかったですよねぇ~? だからこそ、市村さんの手書きなんでしょうけどぉ……。請求書をプリントアウトした後に、わざわざ二重線と訂正印って事は市村さんの独断……ですかねぇ〜?」
鈴掛は、眉間に深い皺を寄せながら
「だろうな……。梅野。お前は、春香ちゃんがこれ書いてる所を見てなかったのか?」
と訊ねた。
「俺、施術用ベッドに座ってたから、市村さんの背中しか見えてなかったんですよねぇ~。『何か書いてるなぁ~。請求書に書き込むとか初めて見たなぁ~』って思ってただけでぇ~」
そして、またも二人して腕を組み
「「う~ん」」
と唸る。
「金額の訂正もなんですけど、20日分に神の手の料金が含まれてないんですよ……。それと、休日出勤してもらった分って請求されないんでしょうか?」
「お前、20日にも神の手使ってもらったのか?」
雄太が、20日分の料金表を指差しながら訊くと、鈴掛が大きく目を見開く。
「え? じゃあ プラス30万円……? 休日出勤代って、いくらなんだよぉ……」
純也が、普段考えた事もない金額に頭を抱えた。
「休日出勤返上はパソコンをいじるだけだけど、神の手を使ってたのを請求しないのは、ガチで市村さんの判断だよなぁ~。神の手を使ったかなんて、黙ってれば会計の里美先生には分からないんだからなぁ~」
(ん~。市村さんに何があったんだろぉ……?)
梅野も、初めて見る金額に悩むばかりだ。
「正直、分かんないよな……。直樹先生が箝口令しくはずだよ。とりあえず、この事は他言無用だぞ?」
鈴掛が言うと、三人は深く頷いた。
(これ、市村さんに訊いた方が良いのかなぁ……? 上手く誤魔化そうとしてたみたいだし、訊かない方が良いのかも……。でも、気になるんだよな……)
会える日にでも訊こうと思うと、雄太は心がポカポカする気がした。
「ま、機会があれば訊けば良いし、春香ちゃんなりの考えがあるって事で訊かなくても良いだろ。とりあえず デビュー予定通りにいけるんだ。良かったな」
鈴掛は、雄太の肩をポンと叩いた。
「はいっ‼」
雄太は拳を握って笑った。
(やっと……俺の夢への一歩を踏み出すんだ。絶対、日本一の騎手になってやるっ‼)
3月1日まで後7日




