441話
旧宅の荷物を軽トラに積み、雄太と梅野は新居に向かった。
「とりあえずこれを下ろして、もう一回ぐらいで終わりそうだなぁ〜」
「ですね。荷物増やさないようにしてたけど、意外とあったな」
食器類などは重ねて積んで、荷崩れをおこしたら大変だからと言うのと、重いから持てないと困ると言う事で小さな箱で小分けにした。
新居に着き、駐車場に車を停めて勝手口から食器類や調理道具を運び入れる。
「小さい段ボールは食器類だから、気をつけて持ってよぉ〜?」
「はい。ありがとうございます」
「春香、こっちのは調理器具類だからな?」
「うん」
次々と運び込み、次は赤いガムテープを貼った段ボールを軽トラから下ろしていく。
「春香の部屋の物は赤いガムテープのだしな」
「うん。段ボール足りそう?」
「ん〜。どうかな? 後は、衣類だけだよな?」
多めにもらってきたつもりだったが、意外と使ってしまっていた。
「トランクも使う?」
「そうだな。あ、調理器具類はパパッと片付けられそうだし、箱開けちゃうか」
「そうしよっか」
雄太は靴を脱いで室内に入り、箱をキッチンに運び込んで開ける。春香は、素早くテーブルなどに中身を取り出し箱を空にする。
雄太がその箱を梅野に手渡し、軽トラに積み込む。
全ての調理器具を箱から出して、雄太達はまた旧宅に向かった。
「お疲れ様でした。先にお風呂にしますか? 昨日、着ていた物は乾燥機かけたから乾いてますから」
旧宅から引き取るべく荷物を運び込んだ雄太達に春香は声をかける。
「そうだな。汗もかいたしな」
「そうさせてもらおうかなぁ〜」
「春さんの飯楽しみだぁ〜」
汚れた体のまま食事をするのは、さすがに嫌らしく、きちんとたたんである衣類を手に三人は浴室に向かった。
「雄太くんもお風呂入っちゃってね?」
「ああ。モミの木を運んだら入るよ。ウッドデッキの横で良いんだよな?」
「うん。お願いね」
雄太はモミの木の植木鉢を運び、風呂に向かった。
「お疲れ様でした。たくさん食べて……も良いのかな?」
テーブルの上には、しゃぶしゃぶの準備がされていた。
「お〜。これは良い肉だな……」
「お引っ越しのお手伝いのお礼です」
鈴掛は、大きく目を見開く。肉の横には、野菜も綺麗にカットされ置いてある。
「日本酒もワインも冷えてますよ」
春香は楽しそうに冷蔵庫からグラスを出して並べる。
「春香、あの日本酒は冷蔵庫?」
「うん」
梅野と純也はテーブルにつきながら、顔を見合わせる。
「あの日本酒?」
「何か特別なヤツぅ〜?」
「新潟の美味しいの買ったんです。冬季限定のなんですよ」
春香が答え、雄太が冷蔵庫から日本酒を取り出すと、鈴掛がラベルを覗き込み、はぁ〜っと息を漏らす。
「これ……呑みたかったヤツだ……」
「蔵元さんに、今日届くように送ってもらったんです」
「あ……ありがとうな……」
鈴掛達は、引っ越しの手伝いをしたお礼としては豪華な食事を堪能した。
「今日は、本当にありがとうございました」
春香は凱央をラベンダー色の膝掛けに包み、酔い覚ましに駐車場に出ている鈴掛達に頭を下げた。
「何て事ないよ、春香ちゃん」
「そうだよぉ〜。遠慮はなしなしだよぉ〜?」
「はい」
鈴掛と梅野は赤ら顔で笑った。雄太は自身の車で、純也は静川の軽トラを返しに静川宅へ向かっている。
「あ、雄太くん戻ってきましたね」
春香は駐車場の壁にあるスイッチを押してシャッターを開けた。
雄太は車を敷地内に入れると、一度エンジンを止めた。
「お待たせしました。送りますね」
「おう。じゃあな、春香ちゃん」
「またね、春香さん」
鈴掛と梅野は後部座席に乗り込む。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げた春香に、鈴掛と梅野は手を降って寮に戻っていった。
まだ完璧に片付いた訳ではないが、新居での生活が楽しみでたまらない春香は空を見上げて大きく息を吸い込んだ。




