436話
「雄太くん。雄太くん、起きて」
「ん……。あ、春香ぁ……」
雄太は、眠い目をこすり、顔を覗き込んでいる春香の腕を引っ張りベッドに引き込む。
「春香ぁ……。愛してるぞぉ……」
「ゆ……雄太くん……。ちょっ……」
ベッドに引きずり込んだ春香のうなじに顔を埋める。
「おい、人前でサカるなよ」
「雄太のエッチぃ〜」
「朝っぱらからかぁ〜。いつも通り?」
「ん……? へ? え……? えぇ~っ⁉」
半分寝た状態だった雄太の頭が急速に覚醒した。
「な……な……な……」
目を白黒させる雄太の顔を覗き込む鈴掛、梅野、純也の三人はニヤニヤ笑っている。
「お前さぁ〜。もしかして、昨夜から俺達が泊まってたの忘れたのか?」
「嫌だなぁ〜。雄太って、そんな風に春香さんとイタしてるんだなぁ〜」
「雄太ってケダモノだな」
「う……う……う……」
引きつる雄太に、顔を真っ赤にして両手で顔を覆っている春香。
「ゆ……雄太くん……たら……」
「ご……ごめん……。つい……」
小さな声で言う春香の頭を撫でながら謝った。
「いっただきま~す」
「おぉ〜。日本の朝食って感じだな」
「何か……感動ぉ……」
三人はテーブルに並べられたThe和食といった朝食に顔がパァ~っと明るくなる。
「おかわりたくさんありますからね? 遠慮なく食べてください」
「はいっ‼ はぁ〜いっ‼」
フリルのついた水色のエプロンで笑う春香の言葉に、純也が大きく手を挙げる。
「お前……」
「純也は相変わらずだなぁ〜」
鈴掛と梅野は呆れたように言う。
「へ? なんすか? 春さんは、俺の為にたっぷり用意してくれたんすよ?」
「ソルの為じゃないっての……」
雄太と純也の会話に、春香は堪えきれず吹き出す。
「出汁巻き玉子、もう焼き上がりますから」
ふんわりと焼き上がった出汁巻き玉子を皿に乗せ、スッスッスと包丁でカットをしてテーブルに置く。
「はい、どうぞ。一口目は、そのままで食べてみてください。薄かったら醤油とかつけてくださいね」
純也達は、小皿に一切れ取ろうとして目を丸くする。
「え?」
「春さん、これ……明太子っすか?」
「明太子入り、俺久し振りかもぉ〜」
出汁巻きの中心に明太子があった。
「春香の出汁巻き玉子のバリエーションが多くて、どれが一番好きか悩むんですけど、明太子入りは俺の好物なんです」
雄太はそう言って、出汁巻きをパクっと口に入れた。
鈴掛達も口にして噛み締める。
「うまぁ……。春さん、これ最高っすぅ……。飯が進むっすぅ……。飯、おかわりお願いするっす」
「そうですか? お口に合って嬉しいです」
ニコニコと笑う春香に純也は茶碗を差し出す。受け取った春香は、炊飯器から炊き立てのご飯をよそう。
「ソル、おかわり早いな」
「美味いんだもんよ。良いなぁ〜。毎日、こんな美味いの食えて」
純也は、春香が差し出した茶碗を受け取り、ペコリと頭を下げる。
「明太子出汁巻きも美味いけど、チーズ出汁巻きも美味いんだぞ」
「へ? チーズ出汁巻き?」
自慢気に言う雄太の言葉に、純也がピクンと反応する。
鈴掛と梅野も春香を見た。
「チーズ出汁巻きも雄太くん好きなんです。スライスチーズを真ん中に入れて巻くんですよ」
「スライスチーズを芯にして巻くのぉ〜? やわやわして巻きにくそうだけどぉ〜」
少々だが料理が出来る梅野が目を丸くして訊ねる。
「慣れたら出来ま……、プッ」
春香が吹き出した。その視線の先を雄太達は見て、口をあんぐりと開け呆れた。
「純也……。ヨダレ拭け……」
「純也って、マジ食い意地張ってんのなぁ〜」
「ソル……、お前なぁ……」
どうやらチーズ出汁巻きが食べたいらしく、口を半開きにして春香を眺めている純也がいた。
「プッ……。わ……分かりました。チーズ出汁巻き作りますね……。ふふふ」
「サンキューっす。春さんは、マジ天使っすっ‼」
雄太達の新居は、朝から笑い声が溢れていた。




