43話
「でさ、雄太ぁ~」
梅野が ニッコリと笑う。
「な……何ですか……?」
『お前、市村さんの事が好きだろぉ~』
あの日、梅野に言われたセリフが甦り、雄太は腰が引けた。
「金曜日、二万円払ってツリもらってたろぉ~? あれ、何でぇ〜?」
春香の事を言われるのかと雄太は身構えたが、違っていた事にホッとした。
「え? 時間外で、春香ちゃん指名して、何で二万でツリがあるんだ?」
鈴掛が顎に手を当てて悩みながら言う。
「俺も変だなって思ったんです。請求書は訂正ばっかりだったし。直樹先生から、鈴掛さん達以外に金額の話はしないようにって、コッソリ言われたのも気になってて」
「箝口令付きか? 春香ちゃんの施術費用は人によって変わる部分はあるけど、大体の金額は明示されてるのに、わざわざ 箝口令って……何でだ?」
鈴掛の眉間のシワが深くなる。
「カンコウレイってなんすか?」
見た事のない難しい顔をした鈴掛には訊けず、純也は梅野の服の裾を引っ張って訊ねた。
「市村さんが雄太に請求した金額や雄太が支払った金額の事を『誰にも言うな』って事だよぉ〜」
梅野の答えに、純也は頷くと雄太の方を見て
「俺、絶対に誰にも言わないぜ」
と真面目な顔で言った。
「とりあえず明細書見せてみろ。持ってんだろ?」
鈴掛に言われ、雄太は引き出しにしまっていた明細書を出して皆の前に広げた。
〖2月19日分
初回来店料 1.000円
特別施術料(30分) 300.000円
時間外特別施術料 500.000円
指名料 10.000円
2月20日分
通常施術料(30分) 20.000円
指名料 10.000円
松葉杖貸出料 5.000円
その他(カード発行料等) 2.000円
合計 848.000円 〗
「は……は……848.000円っ⁉」
純也が口をパクパクさせる。
「うん。春香ちゃん指名で、しかも時間外となれば、こんなモンだよな?」
「ですよねぇ~? むしろ安いぐらいではぁ〜?」
何度も春香指名をした事のある鈴掛と梅野はサラッと言う。
「この『特別施術料』って言うのが『神の手』の料金ですよね?」
雄太が指差すと、鈴掛と梅野は頷く。
特別施術料に二重線が引かれ 3.000円
時間外特別施術料は4.000円
通常施術料は3.000円
合計18.000円
下の余白には『学割』の赤い文字。
二重線と訂正印だらけの請求書に、鈴掛も梅野も固まるしかなかった。




