421話
1月4日(金曜日)
京都競馬場の調整ルームに入った雄太は、当たり前のように雄太の部屋に集まった鈴掛達と駄弁っていた。
「凱央はどうしてる?」
一番最初に凱央の事が気になるのは、鈴掛が父親だからだろう。鈴掛は娘で、凱央は息子と言う違いはあるが。
「元気ですよ。もう、可愛くて可愛くてたまんないですね」
雄太の目尻が思いっきり下がる。そして、ゴソゴソとバッグからミニアルバムを取り出す。
「ほら、これ見てください。可愛いですよね? ね? ね?」
沐浴して、ホヤァ〜としている凱央の写真を見せながらニマニマと笑う。
「雄太が親バカしてるぅ……」
「ええ、親バカですよ? 梅野さんだって、子供が出来たら分かりますよ」
ニヤリと笑いながら、写真を梅野に見せつける。
「凱央のシシトウ……」
「ソル、どこ見てんだよっ⁉」
ボソッと言う純也に雄太がツッコミを入れる。
「純也より立派になるかもなぁ〜」
「何て事を言うんすかぁ〜っ⁉ 俺の立派さを知らないんすかっ‼」
「知らないし、知りたくもないけどぉ〜?」
梅野がニヤニヤと笑いながら純也をからかう。鈴掛はやれやれといった顔で、雄太の手から落ちたミニアルバムを拾い上げて凱央の写真をじっと見詰めていた。
キャンキャンとやり合っている純也と梅野は放置しておけば良いかと、雄太は鈴掛と写真を眺める。
「本当、可愛いよな。きっと、お前もこんなだったんだろな」
「……そうですね。いつの間にか生意気になって、親への感謝を忘れて、自分勝手に生きてしまってたり……」
「なんだよ? ちゃんと好き勝手やり放題だったの反省してるじゃないか」
「う……」
親になって数日で、雄太は親である慎一郎と理保への気持ちが大きく変化した。
春香と結婚をする頃よりも、遥かに親の想いなどが理解出来るようになった。
「親って……こんな風に育ててくれてたんだなって思ったんですよね。俺、夜中とか春香に任せっきりになってしまわないように、休みの前の日は一緒に寝てるんですよ」
「へ? 夜泣きするだろ?」
「ええ。やっぱり腹減った〜とか、オムツ替えてくれ〜とかで起きますよ。でも、それを春香だけにさせてるのは違うかなって思って」
凱央の写真を愛しそうに撫でる雄太の優しい顔は、しっかり父親の顔だ。
「そりゃまぁ……な。大丈夫……なのか? 寝不足とかは」
「ないですよ? 普段は、別々に寝てますし。一緒なのは休みの前日だけにしてますから」
「成る程な。一緒の部屋で寝て、凱央の世話してる訳か?」
「ええ。オムツ替えたりしてます」
純也と梅野は、父親の会話をしている二人を見ていた。
「梅野さん、雄太が大人に見えるっす」
「あれが父親ってモンなんだぞぉ〜」
「俺も父親になったら、あんな風になるんすかね?」
「純也は……変わらなさそうだよなぁ〜」
「ヒデェっす」
馬の世話をしていれば、糞尿の世話は当たり前である。だが、相手が人間だと躊躇してしまうのがよく聞く話だ。
雄太は、それが出来ていると言っている。
「てか、オムツ替えなんて、俺出来っかなぁ〜」
「夫婦の生活もだけど、子育ても夫婦でやるもんなんだぞぉ〜」
「ん〜。自信ないっす」
「奥さんはやって当たり前で、旦那の純也は駄目ってのは、今の時代にはそぐわないんだぞぉ〜」
「……梅野さんも良い夫、良い父親になりそうっすね?」
お互い胡座をかいて向かい合って座っている二人は、今のところ特定の相手はいない。
純也は彼女が欲しいと言い続けているが、梅野にいたっては自由人と言った感じだ。雄太の事を羨んでいる部分が少ない事からして理解出来る。
「俺は、奥さんにだけさせないってのは言えるぞぉ〜。子育てなんて一人でやるには大変だって聞くからなぁ〜」
「そうなんすか? 俺、もっと色々知ってからしか結婚しちゃ駄目な気がするっす」
適当に生きてるように思われがちな純也も、しっかりと結婚するにはどうすれば良いかを考えていると、梅野は安心していた。




