41話
思いっきり枕を抱え込み、目をギュッと閉じる。
(俺は……もう、あんな思いはしたくない……)
『雄太は馬にしか興味ない訳?』
『あたしと競馬どっちが大事なのよ?』
『つまんない男。あたしが付き合ってあげたのに』
元カノの言葉が、今も雄太をいたぶる。
『未練はない』と梅野に言った言葉に嘘はない。
ただ、あの時に投げ付けられた言葉がチクチクと抜けない棘のように、何度も繰り返し心を突き刺す。
(あの頃と俺の何が変わった……? 騎手になる事は諦めないって思う気持ちだけなら、誰と付き合っても、また同じ事を繰り返すだけじゃないか……)
そう思いながらも、雄太の話す競馬の事を真剣に聞いてくれていた姿や乗馬体験に行きたいと言った春香を思い出す。
(市村さんは俺の話を……競馬の話も楽しそうに聞いてくれてた……。仕事だからだと言われれば、そうなのかも知れない……。でも……俺が市村さんと話してて楽しいって思ったんだ……。もう会えなくなる訳じゃないのに……完治して嬉しいはずなのに……淋しいって思ったんだ……)
彼女が欲しいと思っていた訳じゃない。
今は競馬に集中していたいと思っていたはずだった。
それなのに、突然心の中に春香が入り込んで来た。
(笑った顔も拗ねた顔も……。キリッとしたプロの顔も好きだ……。俺……市村さんが……好きだ……)
ゆっくりと雄太の心に広がっていく温かく優しい気持ち。
チクチクと痛みを与えていた棘が消えて行くような感覚。
(市村さん……)
『あの柔らかい膝掛けを見て、市村さんの柔らかい指を思い出して、人に言えない妄想して』
「うわぁぁぁぁぁっ‼」
梅野のセリフがふと思い出され、雄太は枕に向かった叫んだ。
(う……梅野さんが変な事を言うからっ‼)
夕方近くになり、純也が日課のランニングを終えて雄太の自室を訪れた。
「雄太ぁ~。調子は……って、お前 何やってんの?」
まだ2月だと言うのにタンクトップ一枚になり、ダンベルを上下させている雄太が居た。
「あ……ソル。えっと……まだ足は動かしても良いって言われてないから、腕の筋肉を鍛えておこうと思って……」
苦笑いを浮べながら雄太は答えた。
(それにしては、やり過ぎじゃね?)
純也はそう思ったが、普段
「お前、トレセン周り何周走るんだよ?」
と言われてるから
「そう言う日もあるよなぁ~」
と笑った。
(か……体 動かしてないと、俺バカになりそうだ……)
ただひたすら、筋トレに励む雄太だった。




