415話
雄太が出かけた後、春香と凱央は直樹の自宅にいた。
「ほら、凱央。ジィジだぞぉ〜」
直樹は正月早々、爺バカを炸裂させていた。凱央が、どこまで分かっているか分からないのに、一生懸命にかまっている。
「凱央は良い子だなぁ〜」
「直樹、初詣に行くわよ?」
「え? もう?」
「もうって……。もう10時過ぎてるのよ?」
里美が呆れ顔で溜め息を吐く。雄太が出かけた後だから、もう二時間は凱央をかまっている。
「寝てる顔も、起きてる時も可愛いからかまいたいんだよ。後一ヶ月ぐらいしか一緒にいられないんだからさぁ〜」
「確かにそうだけど。とりあえず初詣に行くわよ?」
里美に引きずられるように直樹は初詣に出かけた。
「ふふふ。ねぇ、凱央。おじいちゃん、面白いね〜」
凱央は、綺麗な目で春香を見詰めていたが、フワフワと欠伸をし始めた。
「ん? そろそろおネムかな?」
そっと凱央を抱っこし、オムツを替えた後、背中をリズムをとりトントンとする。大きな欠伸をした後、スヤスヤと眠った凱央の寝顔を見て、雄太の赤ん坊だった頃を想像してみた。
(そうだ。今度、お義母さんに雄太くんの赤ちゃんの時の写真を見せてもらおう)
理保は嫌がらず見せてくれるだろうと思うとワクワクしてきた。
「あ、雄太兄ちゃん」
「ん? 健人」
「明けましておめでとう、雄太兄ちゃん」
「ああ。おめでとう、健人。お前、一人か?」
「うん。家にいても、酔っ払っいがいっぱいだから、友達ん家に遊びに行ってたんだ。兄ちゃんは挨拶周り?」
恐らく小園の家では挨拶周りを終えた騎手仲間が宴会をしていたのだろう。子供にしたら、お年玉さえもらえれば逃げたくなる状況なのは、雄太も経験済みなのでよく分かった。
「ああ。もう終わったから、後は実家だけだ。あ、健人手を出せ」
「え? うん」
健人は自転車を足で支えて右手を伸ばした。
「無駄遣いするんじゃないぞ?」
雄太がポケットから出したのは、キャラクターの描いてあるポチ袋。
「え? お年玉?」
「ああ。あ、これ健人にもやるよ」
雄太はバッグの中から、写真付き挨拶状を取り出して手渡した。
「あ〜。これが雄太兄ちゃんの……」
「そうだ。凱央だ」
「そっかぁ〜。俺、いつ凱央に会える?」
「二月には会えるぞ」
「分かった」
健人は写真の凱央を見ながら嬉しそうに笑った。
春香から、健人が凱央が生まれたら会いたいと言っていたと聞いていたが、本当に待ち遠しく思っているのだなと雄太は思った。
「新しい家建ててるのは知ってるだろ? あれが完成したら帰ってくるんだ」
「父ちゃんが、雄太兄ちゃんみたいなデカい家を建てられるようになれって言ってた」
「小園さんが? そうだな。健人は乗馬教室で優秀だって聞いてるから、俺も期待してるんだぞ?」
健人が優秀だと小野寺から聞いていた雄太は、健人の頭を撫でる。
「えへへ。俺、絶対に雄太兄ちゃんとライバルって言われるぐらいになるよ」
「ああ。けど、簡単には負けやしないぞ? 凱央と春香に格好良い処を見せなきゃなんないからな」
今までは春香だけだったが、凱央と言う我が子の為にも頑張らなきゃいけないと思っている事を健人にも伝える。
「分かってるよ。俺がデビューする時に、雄太兄ちゃんがトップジョッキーじゃないとつまんねぇからさ。頑張ってくんないと」
「そうだな」
純也のように同年代のライバルも必要だと思う。だが、歳下の所謂若手に追いかけられるのもヤル気が出るかも知れないと思った。
「じゃあ、春香にもありがとうって言っといて」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「うん」
健人は、薄暗くなりつつある道を自転車で走り去った。
(健人がデビューする時にトップジョッキーか。当たり前だ。ガンガン勝ち鞍稼いでる状態で健人を待ち構えててやるからな)
健人がデビューする頃、雄太は29歳。中堅と言われる歳だろう。
その頃には、もっともっとG1を獲っているようにならないとと思う雄太だった。




