412話
雄太と直樹は競馬の話で盛り上がっていた。
レースの時の感覚の話などを興味深そうに訊いている直樹と生き生きと話す雄太の姿は、仲の良い義親子として理想的だ。
「ほぅ〜。そんな感じなんだなぁ〜」
「ですね。無心で追ってる時もありますけど」
「じゃあさ、気性の難しい馬は?」
「危ないですよ? 振り落とされたりとか、噛みつかれた人も一人や二人で済まないですし。下手をすると指もっていかれます」
「ヒェ〜」
その様子を、凱央をつれてリビングに移動した春香と里美は笑いながら見ていた。
「直樹ってば、雄太くんと話すのが楽しいみたいなのよね。25日は雄太くん休みだったじゃない? 夕飯の時、結構な時間話してたみたいよ」
「そうなんだぁ〜。二人が仲良くしてくれて嬉しいな」
「直樹が結婚に反対したのって、春香を手離したくないから……だったからだしね」
里美は春香に抱かれスヤスヤと眠っている凱央の顔を見る。
「あの時のお父さん、駄々っ子みたいだったよね」
「あら、春香も思った?」
「うん。私、お父さんに大事に思ってもらえるって思った。ちょっと意地悪しちゃったけど」
「たまには、自己主張しても良いのよ。親子なんだから」
「うん」
春香と里美がリビングでのんびり話しているのを横目で見ながら、雄太は直樹と笑いながら話していた。
春香に好きだと言った時から、子供扱いをせず、一人の男として扱ってくれた。
結婚したいと言った時、多少の抵抗はあったが、溺愛する養女を託してくれた。そして、生まれた凱央を愛してくれている。
(お義父さんって、懐が深いって言うか器がデカいって言うか……。梅野さんも凄いって思ってたけど、お義父さんはそれ以上なんだよな。年齢って言うのもあるんだろうけど、やっぱり人間的に凄いな……。尊敬出来る)
鈴掛の人間性を見抜いていたのもあり、直樹の人を見る目は優れていると思った。
(お義母さんが良い人って思ってたけど、それってお義父さんが選んだ女性なんだよな)
雄太が緊急連絡をした時の里美の話の早さは一目を置く。二手先、三手先を読んで、的確な判断をしてくれて助けられていた。
春香が妊娠をし難いのではないかと言う処だけは杞憂で済んで良かったなと思った。
「あら? 直樹ったら酔い潰れたわね」
「え? あ、本当だ。珍しいね」
しばらくすると直樹はテーブルに突っ伏してウトウトしていた。
「余程、楽しいお酒だったのね」
里美が立ち上がり、直樹を揺り動かす。
「直樹。ほら、部屋に帰るわよ?」
「ん? ああ……。春……雄太……。おやすみ……」
直樹は寝ぼけ眼で立ち上がり、直樹は雄太と春香に手を振って、里美の肩を借りながら自宅へと戻っていった。
「雄太くん、お父さんの相手ありがとう」
「ん? ああ、楽しかったぞ」
春香は凱央をベビーベッドに寝かせて、泣いた時の為に寝室のドアを開けっ放しにして片付けを始める。
「手伝うよ」
「うん。じゃあ、食器持ってきてくれる?」
「ああ」
春香はエプロンを着けながら言う。雄太はテーブルにある使った食器やグラスをキッチンに運ぶ。
「俺さ、やっぱりお義父さんもお義母さんも好きだな」
「ふふふ。そう言ってもらえて本当に嬉しい」
話しながら、春香が食器類を洗っていく。
「何か、あっという間の一年だったね」
「そうだな。今年の頭、父さんの所にきた訪問客の相手をして疲れたのが、ついこの前って感じだな」
「あの時は、怒涛のお客様訪問って感じだったよねぇ〜。明日は、さすがに行けないから、再来年のお正月は、また忙しくなっちゃうかな?」
笑いながら言ってくれる春香に安心する。
「再来年は、凱央の成長次第だな。てか、俺が調教師方の所に挨拶周りが通常だぞ?」
「あ、そっか。それが普通なんだもんね。辰野調教師の所には、私も行かなきゃね。仲人さんなんだし」
「そうだな」
色々とあった1989年が終わろうとしていた。




