410話
「フャァ〜、フャァ〜」
「ん? はいはい」
春香が泣いた凱央をベッドから抱き上げる。
「さっきおっぱい飲んだでしょ? オムツかなぁ〜?」
病院にいる時から雄太は気づいていた。
(春香、凱央が生まれてから声が変わった……? あ、凱央に対してだけだから、母親としての声って感じか?)
オムツの確認をして、新しいオムツを出してとテキパキ動いている春香を見ていた。その様子を雄太は、真剣な目で見ていた。
「どうしたの? 病院にいる時から、凱央のオムツ替えを真剣に見てるけど」
「ん? ああ、ちゃんと覚えなきゃなって思ってさ」
「雄太くんにオムツ替えしてもらう時ってあるかな?」
話しながら春香はオムツを替え、使用済みのオムツを処理してから手を洗いにいった。
雄太は、そっと凱央を抱き上げ、ツンツンとほっぺたをつつくとニコニコと凱央が笑う。
(可愛いなぁ……。笑った顔、春香にそっくりだ)
トントンと背中を叩いていると、春香が戻ってきた。
「あ、ありがとう。寝そう?」
「ああ。欠伸してるし、目がトロンとしてきた」
春香は、雄太の隣に座る。凱央を覗き込むと、眠そうな様子が見てとれた。
「あ、さっきの話だけど、雄太くんにオムツ替えてもらう事ってどんな時かな?」
「春香が風呂に入ってる時とか、料理してる時とか。色々、手が離せない時ってあるだろ?」
「まぁ……そうだけど」
雄太の思いやりがある言葉に感動はするものの、少し不安がある。
「オムツって、おしっこだけじゃないよ?」
「え? あ……そっか……。否、凱央は俺の子だし、出来ると思うんだ」
新生児のウンチは、大人とは違う。臭いはキツくはないが、それでも排泄物にはかわりはない。
「うん。とりあえずおしっこの時に替えてみる?」
「気を付ける事ってあるか?」
「うん。えっとね」
雄太に、オムツを替える注意点などを詳しく伝えていく。頷きながら、覚えていく。
「分かった。じゃあ、次に凱央が起きた時にやってみるよ」
「ん〜」
「どうした?」
「私の考え方が古いのかなぁ……。男の人にオムツまで替えてもらうのが、ちょっと引っかかるんだよねぇ……」
春香を見る雄太の目は丸くなっている。
「え? どうかした?」
「洗濯とかはOKなのに、オムツ替えは悩むってのが理解出来なくてビックリした……」
「……そうだけど、オムツと家事と違うって感じしちゃって……」
二人で顔を見合わせて見つめ合い、どちらからともなく吹き出し笑いだした。
「春香って……ブフフ」
「あはは。何だろ。何かね、雄太くんに何でもお願いしちゃ駄目って思ってる訳じゃないんだけど、オムツは駄目だろうって思い込んでた」
「そんな事を思ってたんだな」
「私って、たまにズレてるよね。でも、雄太くんがやり方を覚えて、ちゃんと出来てくれるなら助かっちゃう」
眠っている凱央を起こさないように、小さな声で話していると、無意識に『赤ん坊がいる生活』が当たり前になっているなと二人共が思っていた。
「俺がいない時は仕方ないけど、いる時は頼ってくれて良いんだぞ? さすがに母乳はやれないからな」
「ふふふ。確かにそうだよね。じゃあ、オムツ替えにチャレンジして、ちゃんと出来るようになってね」
「ああ。漏れたり、モタモタして凱央を泣かさないように頑張るよ」
「うん」
春香が料理をしている間も、雄太は一生懸命にシミュレーションをしていた。
「えっと……。汚れたオムツを……あ、先に新しいオムツを横に準備して……。こうやって……こう……か」
そんな雄太をチラチラ見ながら、テキパキと料理を作っていく。お節料理は作れなかったが、元日の朝に食べる物を作っていく。
「あ〜。良い匂いだな」
「ゴマ油の匂い、私も好き〜」
直樹と雄太の好きなキンピラごぼうは、やっぱり作りたいと思っていたから、里美に買い物を頼んだのだ。
「楽しみだな」
「うん」
雄太は、やはり料理をしている春香を見ているのが好きだなと思っていた。




