40話
(そりゃさ……。俺は梅野さんみたいにイケメンじゃないけど……。だからって、フラれるって決め付けなくてもっ‼ ……けど、俺は市村さんより三歳も年下だしな……)
「焼き肉でも何でも奢ってやるぞぉ~」
「言いましたね? その時は、ソル連れて行きますからね?」
雄太はジト目で梅野を見ると、純也と言う切り札を出した。
「え゙……。大食いチャンプ連れは…… やめにしない……?」
住宅地を抜け視界いっぱいに緑が広がる。
トレセンはもう直ぐだ。
「なぁ、雄太……。伝えずに後悔するようなバカはするなよ?」
また、先程のような真剣な声で梅野が言う。
「はい」
雄太は短く
そして力強く答えた。
土曜日
鈴掛と梅野はレースに出る為に、昨日から京都競馬場に滞在している。
純也は厩舎の手伝いをする為にトレセンに行っている。
父母から『大人しくしているように』と釘を刺された事もあり、雄太は自室のベッドでゴロゴロしていた。
(うぅ……。馬に乗りたい……)
直ぐそこに馬がいると言うのに乗れないのは雄太には苦痛でしかなかった。
だが、春香からのOKをもらうまでは我慢するしかない。
足に負担を掛けないようにしながら寝転がって、昨日梅野と話した事を思い返す。
(俺、初めて市村さんと会った時 何て思ったっけ……? あ……『この人が巫女さん?』だった)
神子と巫女
漢字で書くとはっきりと違いが分かるが 読みは『みこ』である。
勘違いしたのは自分だったが
(鈴掛さん、説明してくれなかったし……)
と少しだけ、心の中で八つ当たりをした。
(あの時は痛みでイラついてたし、デビューが遅くなるとか焦ってたのもあったから『巫女って何なんだよ』とか思って大声出したっけ……。悪い事したよな……。けど、市村さんはイラつくとか嫌な顔するとかも全くしなくて冷静で、俺の足を一生懸命治そうとしてくれてた……。だから一目惚れじゃないよな、うん)
目を瞑り思い出す、蒼い炎を宿したような強い瞳。
(あの感じは、好きになるって言うんじゃないよな。確かに、笑った方が良いよなっておも……… うわぁっ‼)
焦って、仰向けの姿勢からうつ伏せになり枕を抱える。
(俺……良いなって思った……。昨日は 拗ねた感じが可愛いって……。しかも、一緒に乗馬体験に行こうって誘ったぞ……。梅野さんに借金したとか以上に、俺デートに誘ったじゃないかっ‼)




