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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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404話


「直樹先生、ちょっと訊いても良いですか?」

「ん? 何だい? 鈴掛さん」


 笑いを堪え過ぎて、涙目になった鈴掛が直樹の方を向いて訊ねる。


「春香ちゃん、土曜日の早朝に出産したんですよね? それなのに、どうして今日、雄太に教える事になったんですか?」


 鈴掛が疑問に思うのももっともだろう。春香は、雄太の妻と言う立場なのだし、阪神競馬場であっても、中山競馬場であっても、職員を通じてでも雄太に伝える事が出来るのだ。


「あ……」

「雄太ぁ〜? どうかしたのかぁ〜?」


 直樹が答える前に、雄太が小さく声を上げた。微かな声に梅野が反応する。


「お義父さん。春香が凱央を産んだ時、父さんと母さんいたんですよね? 出産する時には連絡するって決めてたし」

「もちろん来てもらってたぞ。遅くに申し訳ないとは思ったがな」

「だから、ソルが父さんの様子がおかしかったって言ってたのか……」


 雄太の言葉に、鈴掛と梅野が顔を覗き込むようにする。


「どう言う事だ?」

調教師せんせいがどうしたってぇ〜?」

「ソルが、父さんが何か言いたげにしてたって言ってたんですよ。俺の事をジッと見たりしてたとかも言ってて」


 直樹は、慎一郎が雄太に言いたい事を必死で我慢していたのかと思う。


(春に内緒にしててくれって言われたからな。口がムズムズしてたんだろうなぁ〜)


 雄太から、慎一郎が春香を可愛がっているのだと聞かされていた。孫にデレデレしていたのも見ていた。


(あんなに強固に反対していたのが嘘のようだよな)

「春がな、雄太の気を散らせて落馬とかしたら嫌だって言ってな。それで、慎一郎さんに口止めしたんだよ」

「春香ちゃん、本当に立派に騎手の妻してるんだな」

「初産だから不安たまらないでしょうにねぇ〜」


 人によっては、雄太を信用してないのではないかと言われるかも知れない。だが、春香はほんの少しでも雄太の為にならない事はしないと決めている。


(春香は、やっぱりいつだって俺の事を……。)


 満面の笑みで『雄太くん』と呼んでくれる春香を思い出す。


「雄太」

「え? あ、はい」


 駅弁を食べていた箸が完璧に止まっている雄太に、直樹が声をかける。


「春は、一人で頑張ったんじゃないぞ? もちろん、俺達や鷹羽のご両親もいたし、外科医なのに白衣を着て準備万端と言わんばかりに待機していた兄さんもいた。だけどな、お前と撮った写真を抱いていたし、何度もお前を呼んでいた。離れてても、お前が春の一番傍にいたんだ」

「……俺、正直傍にいてやりたかったです。でも、そんな事をしたら春香が気に病みますし、怒りますよね」

「ああ。春が惚れたお前でいろ。俺達は、いくらでもフォローしてやる」


 雄太の夢を共に追いかける事を選んだ春香が、仕事より自分を選べと言う訳がないと、雄太は誰よりも分かっている。


 直樹や里美も、慎一郎や理保もだ。だから、時間が許す限りサポートをし、フォローをする。


「はい。ありがとうございます。お義父さんもお義母さんも、俺の大切な家族です。頼りにさせてもらいます」

「そうだ。それで良い。雄太は春を大切にしてやってくれる。なら、俺達も雄太を大切にする。お互い様ってやつたぞ」

「はい。お義父さん」


 直樹が中山競馬場に来てくれたと言う事は、店を休みにしていると言う事だ。


 勤務医としての仕事は金曜日からは休みなのだが、店は休みではない。


(婚約発表だったり、結婚式だったり、何かと休みにしてもらってるんだよな。何か恩返ししたいって言っても、お義父さん達は拒否するんだろうな……)


 『春を大切にしてやってくれれば良い』


 何かと言えば直樹はそう言う。


(俺の恩返しは、春香を笑顔で過ごさせる事。春香を幸せにする事。そして、産まれた凱央を幸せにする事だ)


 チラリと直樹を見る。雨の中山で冷えた体を温める為に日本酒を呑んでいる直樹の優しい顔が、孫が産まれた事で、より一層優しくなった気がした雄太だった。


 京都到着まで後少し。




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