386話
木曜日の雄太の仕事終わりを待って、雄太と春香は荷物を車に積み込んだ。
「一回で運ぶのは無理だな」
「うん。お布団って嵩張るしね」
布団はレンタルでも良いかと思ったのだが、もし破水したりして汚してしまうかも知れないと思うと、家で使っていた物を運ぶ方が良いだろうと雄太と春香の意見は一致した。
そもそも、買うつもりでいた布団だったが、鷹羽の家の予備の布団をもらったのだ。
「買っても後々使わない可能性の方が高いって思うんだったら、家にあるのを持って行きなさい。使うかどうか分からないと思いながらも、ちゃんと手入れをしてたのがいくつも余ってるから」
「良いのか? かなり長期間借りる事になるけど」
「良いわよ。出産後に使って、赤ちゃんが汚したら処分すれば良いわ。母さんが捨てられなくて置いてただけの物だし」
理保も物を大切に使う性格で、慎一郎の騎手仲間達が泊まる時用に買っていた布団が何組も客間にしまってあった。
たまに干していたと言う言葉通り、新品のような状態だった。雄太達は布団を持ち帰り、一階で使っていたのたが、それを今度は春香のマンションに運び込む事にした。
「春は先に部屋に入ってろよ? 冷やさないように暖房点けて、休んでれば良いからな?」
「ありがとう、お父さん」
春香の顔を見るだけで嬉しさで顔が緩む直樹は、いそいそと荷物を車から取り出す。
(お義父さん、相変わらずだな)
直樹と荷物を下ろしながら雄太は苦笑いを浮かべる。一度荷物を運び入れ、雄太は再び荷物を取りに栗東に戻った。
「春、これは寝室で良いのか?」
「うん。あ……お父さん」
「なんだ?」
「ハウスクリーニングまでしてくれてありがとう」
直樹は抱えた荷物を寝室に置いて、春香の頭を撫でた。
「当たり前だろ? 春が雄太と帰って来てくれたんだ。それに、もう直ぐ赤ん坊も産まれる。綺麗な状態で迎えてやりたいじゃないか」
「うん。お父さん、大好き」
「そうか、そうか」
家全体のハウスクリーニングだけでなく、ガス電気水道の開栓手続きも、全てやってくれていた。
キッチンの冷蔵庫と洗面所の洗濯機はレンタル。全て、直樹と里美が準備してくれた。
「お父さん、今日は肩叩きするからね」
「お? 嬉しいぞ。頼むな」
「うん」
雄太が残っていた荷物を車に積み込み、再び春香のマンションに着いた。
「春香、食材は冷蔵庫に入れておくからな」
「ありがとう」
厩舎でBBQをする時等に使っていたアイスボックスから、食材を取り出し冷蔵庫に入れていく。
「ここなら買い物も楽だよな」
「うん。お散歩のついでに買い物に行けるね」
あれこれ話ながら、荷物を片付けた雄太と春香は、グルリと部屋を見回す。
「何か懐かしいよな」
「本当だね」
雄太は、初めて春香の部屋にきた時の事を思い出した。
マッサージをする為にきて、春香が真っ赤になったのも、純也がガツガツ唐揚げを食べていたのも懐かしい。
初めて部屋に男性を入れたのが雄太だった春香は、少し恥ずかしさが込み上げる。
(ここで……初めて雄太くんと……)
純也達の協力を得て、大晦日から雄太と過ごした。あの日の事は、やっぱり忘れられない。
そう思い隣に立つ雄太を見上げる。雄太も春香を見ていた為に、バッチリ目が合ってしまった。
「春香、顔が赤いぞ?」
「え……。あ……うん。その……あはは……」
まさか、『初めての日を思い出してました』とは言えずに笑って誤魔化す。
「ん?」
顔を覗き込まれると、更に顔が赤くなってしまう。
「何でもないよ。えっと……夕飯にしようか? 明日から、起きるの少し早くなるし、寝坊しないようにしなきゃね」
「そうだな。久し振りに春香ん家の風呂だぁ〜」
「雄太くん、家のお風呂好きだもんね」
「ああ。広くて良いんだよな」
初めてのエッチを思い出した春香に対し、初めて一緒に風呂に入った事を思い出してのぼせそうになった雄太。
似た者夫婦である。




