38話
「じゃあ、次は月曜日にいらしてくださいね。それで何も問題がなければ普通に生活されてもお仕事復帰されても大丈夫です。今の所、月曜日の夕方以外でしたら予約は入ってませんので、鷹羽さんの予定が決まりましたら、いつでもお電話くださいね」
「はい」
(あれ……? 足が治ってデビューに間に合うって言うのに、なぜ淋しいなんて気持ちになるんだろう……?)
よく分からない気持ちを抱えた雄太と梅野は駐車場へ向かった。
店の出入口を少し出た所で春香は 二人を見送ってくれている。
梅野がゆっくりと車を発進させると、春香は 一礼をした後、小さく手を振っていてくれた。
それを、ずっとバックミラーで見ていた雄太だった。
しばらく車を走らせると、梅野はニヤリと笑い雄太に声を掛けた。
「なぁなぁ、雄太ぁ~」
「はい。なんですか?」
ぼ~っと外を見ていた雄太は、運転している梅野を見た。
「お前、市村さんの事が好きだろぉ~」
梅野特製の特大爆弾を投げ付けて来た。
「なっ⁉ 何ですかっ⁉ 突然、何を言うんですかっ⁉」
突然の爆弾発言に、雄太は思いっきり焦った。
「あれぇ~? 違うのぉ~? 俺、お前は市村さんに惚れてるって思ってんだけどぉ~?」
「お……俺は……。そ……そんな事……。べ……別に、そんなんじゃ……」
「何で、そんなにしどろもどろになるんだよぉ~。違うなら違うって言えば良いのにぃ~」
梅野に言われても、完全に否定出来ない自分に雄太は驚く。
(え……? え……? 俺、市村さんが好き……なのか……?)
信号が黄色から赤になり、梅野はゆっくりとブレーキを踏む。
「俺、今朝から何となく『そうなのかなぁ~?』って思ってたし、膝掛け買った時に確定ランプ点けてたぞぉ~?」
(今朝……? 俺、今朝何かしたっけ……?)
何度考えても思い当たらない。
「お前、今朝迎えに行った時さぁ~。俺が話しかけても、純也が話しかけても、あのボロッた膝掛けをチラチラ見てたしぃ~。市村さんに渡す膝掛け買った時、俺に借金したろ? お前の性格からして知り合って間がない先輩の俺に借金しないだろぉ~?」
雄太が梅野や鈴掛と親しくなったのは、競馬学校を卒業した後に栗東配属になってから。
実質一ヶ月も経っていない。
それなのに何でも話せて、気が付けば、ずっと昔からの知り合いのような関係になってはいた。だが、それと借金をするのは別だろうと今更思った。




