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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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381話


 春香はコートとリュックを手にして車に乗り込み、駅前商店街に向かった。


 サラダ用のレタスやトマト等を買った後、馴染みの肉屋に向かった。


「お? 春ちゃんじゃないか」

「あら、春ちゃん。ほら、ここに座んなさい」

「こんにちは、おじさん。一番良いステーキ用のお肉をお願い。おばさん、ありがとう」


 ニコニコとしながら注文する春香を見た肉屋の店長はニヤリと笑い、優しい女将さんは春香に椅子をすすめてくれる。


「愛しい旦那様がG1勝ったんだもんな。良い肉でお祝いしたくなるよな」

「良かったわねぇ〜」

「えへへ」


 東雲でも、春香と競馬中継を見ていた競馬好きな店主は、雄太のファンであり、昔は慎一郎のファンだったと言うから筋金入りである。


 大きな塊の肉を牛刀で切ってもらう。頼んだグラム数より大きく切っているのもいつもの事だ。


「お腹の子は順調そうね」

「うん。凄い元気でね、雄太くんのレース見てたら、何度もポコポコ蹴るの」


 やはり、女将さんは腹の子が気になるのだろう。サッと膝掛けをかけてくれる。


「おぉ〜。そりゃ、将来が楽しみだな。儂は父と子の一流騎手姿を見たいぞ?」

「そうなったら、今よりお肉買いにくる事になるね」

「いつでもいらっしゃい。春ちゃんならいっぱいサービスするから」

「ありがとう、おばさん」


 笑顔で会計を済ますと自宅に向い車を走らせた。






(雄太くん、今どの辺かなぁ〜)


 肉や野菜を冷蔵庫にしまい、ホットミルクを作りソファーに座る。膝の上には雄太から贈られた膝掛けがある。


 雄太とまだ付き合ってもいない、まだ雄太を好きだと自覚もしていない頃に贈られたカシミヤの膝掛け。春香は今も大切に使っていた。


(雄太くんと一緒にいるみたいで、温かい……)





 シンと静かな外から車のエンジン音が聞こえた。


「雄太くんだっ‼」


 春香は、玄関へ出迎えに出た。ドアを開けた雄太に抱き着く。


「おかえりなさい、雄太くん。お疲れ様。格好良かったぁ〜」

「ただいま。ありがとう、春香」


 雄太は、どんなに疲れていても、春香の顔を見ると癒されるのを感じる。


 東京開催だと帰りはかなり遅くなってしまう。帰るのを翌日にしても構わないのだが、雄太は全てのレースが終わると途端に春香に会いたくなるのだ。


 リビングに入るとテーブルの上には青と紫のポンポンと色紙とマジックが置いてある。


「準備万端だな」

「うん」

「俺もサイン増やせて嬉しいぞ」

「えへへ。私も嬉しいよ。雄太くんの記念色紙は、どれだけ増えたって良いもん」


 無邪気に笑う春香を抱き締めてキスをする。何年経っても、変わらずに勝利と無事に帰ってきた事を喜んでくれる。


(本当に……可愛くて大好きだ……)




 風呂に入った後、お祝いのステーキを食べる。


「お肉屋さんのおじさんもめちゃくちゃ喜んでたよ」

「うん、美味い。おじさんの喜びが、ステーキの厚さに表れてるな」

「そうなの。おばさんもおじさんがサービスするのを止めないから、段々サービス過剰になっちゃってるんだよね」


 たくさんのスーパーが進出すると、商店街は寂れていくのがよくある話だ。だが、まだ駅前商店街には個人店が複数あり、春香は好んで利用していた。


 肉屋だけでなく、酒屋等も利用している。厩舎のお祝い事やBBQの時だけでなく、慎一郎達と夕飯を食べる時もだった。


 雄太と春香の提案で、寮ですき焼きパーティーをした時は、ドンと持ち込んだ肉の量に皆が固まっていた。


「春さん……。この肉、どんだけあるんすか……? さっき、酒屋がビールを3ケース持ってきただけでもスゲェーのに……」

「へ? ああ、足りなかったら困るかと思って10kg買ってきました」


 さすがの純也も口をパクパクさせていて、先輩達は大笑いをしていた。


(俺が出来る商店街への貢献は、これしかないんだよな。春香を可愛がってくれてありがとうって、さ)


 そんな雄太への株が爆上がりしている駅前商店街だった。






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