374話
大きな扉が開けられ、直樹と腕に手を添えた春香が礼をする。大きな拍手が湧き上がり、カメラのシャッター音が響く。
雄太だけでなく、慎一郎や理保、鈴掛達も感無量といった感じで見詰めていた。
祭壇奥や天窓から差し込む光で春香が輝いて見えて、雄太は油断すると涙が出そうなぐらいに感動していた。
(本当に……本当に綺麗だ……)
既に目を赤くした直樹は、それでもキリッとした顔で、春香を伴いゆっくり歩いている。
誓いの言葉の後、リングボーイの健人が神妙な顔で歩いてくる。二人の前に立つと緊張しながらも笑った。
「雄太兄ちゃん……。春香……。おめでとう」
「ありがとう、健人」
「健人くん、ありがとう」
指輪の交換をして、誓いのキスをすると、大きな拍手がわいた。
テレビ局のカメラマンが式の様子を映し、鮎川は参列していない招待客のインタビューをしていた。
「あの二人は本当に仲睦まじくてね」
「鷹羽騎手は結婚してから絶好調だしね。良い成績してるし、これからも期待出来ると思ってるよ」
「早くに結婚しても、これだけの成績を残せているなら、何の問題もないだろう」
鮎川は笑顔を浮かべながら、取材を進めていた。
(嬢ちゃん、本当に評判良いな。最初、悪評が立っていたって聞いてたけど、もう大丈夫なようだな)
式が終わると、披露宴が始まるまでの短時間ではあるが写真撮影と雄太と春香のインタビューが行われた。
「無事、式を終えられました鷹羽騎手と奥様です。おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
「鷹羽騎手、奥様のウェディングドレス姿をご覧になった感想は?」
「本当に綺麗で、見るたびに惚れ直しますね」
離れて見ている人々から笑いが起きる。
「そうでしょうね。年末には、第一子の出産を控えていらっしゃいますが、奥様の体調はいかがですか?」
「ありがとうございます。病院の先生からはお手本のように順調だと、太鼓判を押していただいてます」
「男の子か女の子かはお訊きになったのでしょうか?」
「はい。でも、内緒と言う事で良いでしょうか? 今、知っているのは私達夫婦と病院の方だけです」
「そうなんですね。世間の皆様にも、産まれてからのお楽しみと言う事ですね」
二人が頷くと鮎川は次の質問に移る。
「新居の建築もされておられるそうですね」
「子供をのびのび育てたいのもあって、あれこれ拘った家を建てています。拘り過ぎて、完成は来年の始めです」
「楽しみが目白押しですね」
「はい」
「では、テレビの向こうの皆様に指輪のお披露目をお願いします」
二人で揃ってカメラに手の甲を見せる。たくさんのカメラのフラッシュが瞬く。
「ありがとうございました。式を終えられました鷹羽騎手と奥様でした。一旦、スタジオにお返しします」
中継が一旦途切れると、鮎川はニッと笑った。
「本当に綺麗だよ、嬢ちゃん」
「ありがとうございます。鮎川さんも格好良いです」
「よせやい。本当、生中継をOKしてくれてありがとうな。嬢ちゃんが良いって言ってくれるかドキドキだったぞ」
騎手として顔が知られている雄太はさておき、一般人である春香が了承しなければ、この生中継は出来なかった。
「少し迷いましたけど、夫のファンの方だけでなく、式にお呼び出来なかった方々にも見ていただけたらって思って」
「そうだな。商店街の皆さんも喜んで見てくれてるだろうよ」
「はい」
春香の脳裏に、たくさんのおじさんやおばさんの顔が浮かぶ。雄太との結婚を喜んでくれた人達に、今日の中継を見てもらえるなら本当に嬉しいと思っていた。
実際、テレビを設置してある飲食店は勿論、電気屋の店頭には大型テレビが設置され、生中継を流していた。商店街に買い物に訪れた多くの人達が立ち止まり見ていた。
「これからも嬢ちゃんの旦那の格好良い処をどんどん取材するからな」
「はい、楽しみにしています。これからもよろしくお願いします」
春香がペコリと頭を下げると、鮎川は満面の笑みを浮べた。




