373話
結婚式の日取りを決めた時の事。雄太も春香も鮎川を招待したいと考え、雄太はもらっていた名刺に書かれていた連絡先に電話を入れた。
「俺もですけど、春香が鮎川さんを招待したいと言うんです」
『え? 嬢ちゃんがか? ん〜。俺が招待客かぁ……。スケジュールは大丈夫だと思うけど……』
「駄目……ですか?」
『分かった。とりあえず、急な仕事が入らないように事務所に話してから、また連絡するってので良いか? ドタキャンしたくねぇからさ』
鮎川が春香と出会ったのも急な仕事だったからだ。仕事と結婚式……しかも招待だとしたら、仕事を優先するだろうと思い、雄太は一度電話をきった。
数十分、鮎川が電話をくれたのだが、返答に驚いた。
『あのさぁ……。非常に言いづらいんだけど、結婚式の生中継って……どうなんだろう?』
「はいぃ〜っ⁉ な……生中継……ですか……?」
『事務所に話したらさ、招待客として座ってるより生中継するのが仕事じゃないか』って話になってよぉ……。その前から、局から結婚式に呼ばれたら中継の話をしてくれ〜みたいな話になってたみたいで……さ』
芸能人の結婚式の生中継はテレビでやっていたりするが、雄太は自分は無縁だろうと思っていた。だが、入籍の時もテレビ局の人間が押し寄せていたのだから、結婚式に打診があっても……と思い直した。
春香と相談すると言って、また電話をきり、話を切り出すと春香は目を丸くして、しばらく固まっていた。
「け……結婚式の生中継……って芸能人の人がやる事だと思ってた……」
「俺もだよ……」
「ん〜。お父さん達が映らないように配慮してもらえるなら良いよ」
「春香は? テレビで顔を出す事になるぞ? 入籍の時は加工してもらえたけど……。それにテレビで顔を出したら競馬場に行きづらくないか?」
「大丈夫だよぉ〜。競馬場で私の事を見てる人なんていないと思うよ? 皆、レースに夢中だから」
鮎川への返答した後、テレビ局から正式に話が来て、一般招待客への配慮等を条件にOKをしたのだ。
直樹達一般人とテレビに顔出ししたくない馬主達を同じテーブルにした。一緒ならカメラに映らないだろうと思ったからだ。
春香側の出席者が両親だけと言うのも変だと言うのもあり、春香繋がりの馬主達が春香側の招待客にと申し出てくれたのも助かった。
「鮎川さんが、後で挨拶したいって言ってたぞ」
「うん。鮎川さん、結局仕事になっちゃったね」
「そうだな」
それでも、鮎川を招待出来て良かったと雄太は思った。
ノックが聞こえ里美が答えると、鈴掛達が顔を出した。
「春香ちゃん、綺麗だな……」
「うおぉ〜。春香さん、最高だよぉ〜」
「春さん、マジ良いっす」
口々に褒められ、春香は照れ笑いを浮かべる。
後から来た重幸は春香を見て、ウルウルと目を潤ませていた。
「兄さん。俺より先に泣くなよ……」
「うるさいっ‼ ああ……。春香が嫁に行くんだなぁ……」
既に鷹羽姓になっている春香に今更『嫁に行く』もないだろうと直樹に言われた上に里美に呆れられている。
よくよく見れば、鈴掛も目を潤ませていた。
(本当に鈴掛さんも重幸さんも父親モードが板についてるよなぁ〜)
雄太が苦笑いを浮かべていると、どんどんと賑やかになる花嫁控室に慎一郎と理保が顔を出した。
「おぉ……。綺麗だな、春香さん」
「まぁまぁ。お人形さんみたいね」
「父さん、母さんまで……。何で?」
花婿控室には誰もいないのではないかと雄太が呆れていると、慎一郎がチラリと雄太を見た。
「『何で?』だと? お前が一向にくる気配がないから迎えに来たんだろうが」
「あ……。そう言えばそうか」
春香に見惚れ、自身の控室に顔を出してなかったのだから、慎一郎の言う事ももっともである。
「仕方ないわよね。こんな綺麗な春香さんを見たら、ここにいたくなるわよね」
「か……母さん……。じゃあ、春香。また、後でな」
「うん」
顔を赤くした雄太は、春香に手を振ると、慎一郎達に連れられ花婿控室へと向かった。




