表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

371/753

367話


「雄太くん。おかえりなさい」

(春香ぁ……)


 玄関を開けた雄太は、春香を思いっきり抱き締めた。愛おしい気持ちが湧き上がり、ただ黙って抱き締め続けた。


「お疲れ様。無事帰ってきてくれて、ありがとう」


 春香がポンポンと背中を叩いて労をねぎらってくれる。


(ありがとう……。本当にありがとう、春香……。俺の夢は春香の夢だって言われたけど、正直言って海外で乗りたいってのは、俺の我が儘なんだ。それを突き通させてくれてありがとう……。妊娠中なのに笑顔で送り出してくれてありがとう……)


 しばらくして腕を緩めた雄太は、ニコニコと笑っている春香にキスをする。


「ただいま。春香の顔を見たら、疲れ吹っ飛んだよ」

「えへへ。ご飯用意してあるよ。雄太くんの好きな物ばっかりだよ」

「ああ。久し振りの春香の飯だぁ〜」


 荷物の整理も、何もかも後回しにして、春香の料理を存分に味わった。


「やっぱり、春香の作った飯が良いなぁ……。俺、涙出そうだよ」

「大袈裟だよぉ〜」


 照れ笑いを浮かべる春香を見ていると、雄太は幸せな気持ちになる。


「本当だって」

「そう言ってもらえるのが、一番嬉しいな」

「新居の事も、結婚式の事も任せっきりにして、海外に行かせてもらって、本当に感謝してるんだ」


 雄太が海外に行っている間にも、新居の進捗確認や結婚式の打ち合わせがあった。春香は一人でこなしていたのだ。


 妊娠中の春香に任せていた事も雄太の懸念事項ではあった。


「雄太くんは、お仕事だったんだから気にしないでね? 遊んでた訳じゃないんだし」

「ああ。でも、ありがとうは言わせてくれよな?」

「うん。あ、お風呂終わったらサインしてね?」

「へ? 何の?」


 重賞を獲った時にサインはしていたが、今回は何のサインなんだろうかと思ってしまった。


「雄太くんの海外初騎乗記念」


 春香が当然だと言わんばかりの笑顔で答えた。


「雄太くんは、負けたのにって思うかも知れないけど……」

「負ける事からも得られる経験もある……だったよな」

「え? 雄太くん、覚えてたの……?」


 雄太は笑って頷いた。


「春香が、初騎乗で勝てなかった俺に贈ってくれた言葉だからな。俺さ、負けた時には、いつも思い出してるんだ。負けても腐らずに進んでこられたのは、春香からの言葉のおかげもあったんだ。ありがとうな」


 春香には言ってなかったが、春香からもらった手紙は、雄太の宝物として大切に保管してある。


 負けが続いたりして凹みそうな時は読み返していた。


「負けたからこそ、俺は成長出来てきたんだって思ってる。勝って勝って勝ちまくって、負ける悔しさも知らずにいたら努力しなくなるって、春香が教えてくれたんだ」


 雄太の騎手になると言う意志は強固ではあった。だが、負ける事を考えてはいなかった。勝ちへの執着が、若さ故の真っ直ぐさが、『負ける』と言う事を考えられずにいた。それを教えてくれたのが春香だったと雄太は思っていた。


(鈴掛さんにも散々言われてた……。だけど、実際デビューして負ける前だったから、ちゃんと考えられなかったんだよな……。俺、今回初の海外騎乗で二回目のデビューしたって感じだった。それで、また春香の言葉に助けられた……)


 春香の頬に手を当てると、その手に自分の手を添えて笑ってくれている。


「念願の海外騎乗も……結果は良くなかったけど叶えられた。かなり壁は高いけど、絶対に一着獲れるまで諦めないから」

「うん。雄太くんならやれるよ。信じてる。だから……」

「ん?」


 春香はニッコリと笑う。


「今日は一緒にお風呂に入って、その後、しっかりマッサージしようね」

「え? 一緒に風呂入ってくれるのか?」

「うん。お風呂入りながらもマッサージするからね」

「ああ」




 食事の後、トランクの中の荷物を片付けながら洗濯をし、一緒に風呂に入った雄太は、背中を流してもらい、マッサージをしてもらった。


 風呂から出てからもマッサージをしてもらい、そのまま爆睡した雄太だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ