36話
(全治一ヶ月って病院で言われたのに、もう完治間近なんて……。市村さんの『神の手』って本当に凄いな……)
「じゃあ、足を拭きますね。終わったら松葉杖の高さを調節しますから」
春香はそう言って松葉杖を施術台に立て掛け、手洗い場に向かうとタオルを絞り始めた。
そして足を綺麗に拭うと、春香は 松葉杖を雄太に渡した。
「ゆっくりと立ってみてください。痛みや違和感があったら無理しないでくださいね?」
雄太は頷いて、松葉杖を持ちゆっくりと立ち上がった。
「少し高いみたいですね。一段下げますね。痛みは?」
「大丈夫です。全くないですよ」
「はい」
雄太がそう答えながらもう一度施術台に座ると、春香はボタンを押して松葉杖を一段下げた。
「これで良いと思います。えっと…… 少々お待ちくださいね」
春香はデスクに戻ると、ペン立てからボールペンを取り請求書に何かを書き込み始めた。
(市村さん……? 何を書いてるんだろう……? 請求書って何か書き込む物だっけ……?)
雄太が不思議に思い見ていると、春香は引き出しを開けハンコを取り出すと何ヵ所もポンポンと押していった。
その後、ボールペンをペン立てに戻すと、今度は赤いマジックを手に取り 、また請求書に何かを書き込んでニッコリと笑った。
そして、請求書とトレーを持ち雄太に近付いた。
「お待たせしました。こちらが鷹羽さんのカードと両日の請求書になります」
差し出されたトレーには『鷹羽雄太』と刻印されたゴールドのラインの入ったカードがあった。
その隣には、何ヵ所も二重線が引かれ『市村』と言うハンコがいくつも押され、一番下に赤い文字で『学割』と書かれた請求書。
元々の請求金額とは全く違う合計金額1万8千円の請求書に、雄太は唖然とした。
「えっと……、い……市村さん……。こ……これは……?」
雄太が恐る恐る請求書を指差すと、春香が満面の笑みを浮かべて答える。
「これですか? これは訂正印です。『これは間違ってます』って事で『私が消して修正しました』って証です」
(え? そうじゃ……そうじゃなくて……。えっと……良いのか? これ……。)
思いっきり悩みながらも雄太は財布から一万円札を二枚取り出し差し出すと、春香は頷いてトレーからカードを取り、雄太に差し出した。
「次回からは、このカードの提示をお願いします。じゃあ、お釣り持って来ますね」




