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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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364話


「アメリカ行き決定したよ」

「本当に? うわぁ……」


 馬主オーナーから正式に騎乗依頼がきた。雄太の初めての海外騎乗が決定した事となった。


「妊娠中で大変な時に、アメリカに行く事になってごめ……」


 春香は雄太の口元に手を当てて、言葉を遮った。そして、首を左右に振る。


「謝っちゃ駄目。雄太くんの夢であり、私の夢でもあるんだから」

(春香……)


 雄太は、そっと体をあずけてくる春香を抱き締める。安定期には入ったが、万が一の事を考えると『一緒にアメリカに行く』とは春香は言わない。


「雄太くんがアメリカのレースに出られるのは、今回だけだなんて思ってないって言ったでしょ? 次は現地で応援出来るって信じてるんだから。もし、次が行けなくても、雄太くんなら何度でも行けるよ」

「そうだな。子供を連れて海外に行くのも良いな。仕事柄、旅行は無理だって思い込んでたけど、海外のレースに家族で行くのも良いよな」

「うん」


 8月に入り、ふっくらとしてきた腹に手を当てる。その膨らみに雄太は幸せな気持ちになる。


「エコーで見るより、お腹が膨らんでくると、より実感出来るよな。パパになるんだって」

「そうだね~。元気に育ってるのが分か……あ」


 ポコッ


「あっ‼ 動いたっ‼」

「初めて触れたね。いつも、雄太くんには『動いたよ』って言うだけだったもん」

「ああ、タイミング悪いなぁ〜って思ってたし、俺が触ると動いてくれないのかって思ってたけど……」


 ポコッ ポコポコッ


「ああ……、動いてる……動いてるぞ……。そうかぁ……。元気なんだな……」


 手に伝わる『生きている』感覚に涙がにじみそうになる。


「なぁ、こんな風に動いてるのって、どんな感じなんだ?」

「んとね……。お腹の中から蹴飛ばしてるなぁ〜って感じ? ん〜。上手く言えないけど」

「あはは。男の俺には、一生分からない感じだけど、元気なんだってのは分かるぞ」


 話している間も、時折、雄太の手に伝わる元気な証。


「きっと、雄太くんがアメリカに行く事を喜んでるんだよ」

「そっか。うん。この子の為にも頑張ってこなきゃな。お、まただ。中々、自己主張が強目だな?」


 ポコポコと動いているのが嬉しくなる。撫でると蹴り飛ばしているようで、手が離せなくなる。


「まさかとは思うけど、『触るな』って蹴り飛ばしてんじゃないだろうな?」

「ふふふ。雄太くんに似てヤキモチ焼きかもね〜」

「カームじゃないんだから、妬くんじゃないぞ?」


 その時、ポコポコではなく、グィ〜っとした感覚が手に伝わった。


「え? 今のは何? ポコポコじゃなかったぞ?」

「グィ〜って言うのは、手で押してるんじゃないかな?」

「伸びをしてる感じか?」

「そうそう」


 しばらくして動かなくなると、雄太は腹から手を離した。


「お昼寝……って言って良いのか分かんないけど、寝たのか?」

「かも知れないね〜」


 雄太はジッと自分の手を見詰めた。ポコポコと蹴られた感触。グィ〜っと触れられたような感触。どちらも、愛おしいと思った。


「そろそろ、マジで名前を考えなきゃな。お腹にいても、名前で呼んでやりたいって思うんだ」

「うん。胎児ネームも良いけど、ちゃんと名前で呼んであげたいなって思うんだよね」


 いくつか名前の候補はあった。思い付いたものをノートに書きとめただけのものだが、雄太が考えた物と春香が考えた物が書かれている。


 そのノートを開き、書いたものを見ていく。


「やっぱり、呼びやすいのが良いよな」

「うん。それとね、海外の人にも呼びやすいのが良いな」

「海外の人?」

「うん。もし騎手になって海外で走る時がくるかも知れないじゃない? そもそも騎手なるって決まった訳じゃないけどね」


 恐らく『雄太』は『ユータ』と呼びやすいだろう。海外の人達は『タカバネ』は言い難いから、名前が呼びやすかったら名前呼びになると考えたのだ。


 そんな事を考えていると、あっという間に時間が過ぎていく事を幸せと感じる二人だった。



 




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