表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

362/742

358話


『春香さん、雄太はまだ帰ってきてないかしら?』

「はい。後20分ぐらいで帰ってくるんじゃないかと思います。何かありました?」

『ええ。ちょっと相談したい事があるの。帰ってきたら、電話してくるように言っておいてくれる?』

「はい。分かりました」


 色々と話したい事もあるだろうけれど、長電話は禁物であるから、理保は伝えたい事だけで電話をきった。


 帰宅した雄太に、理保から電話があった事を伝えた。


(母さんが? 珍しいな。何だろう?)


 雄太は首を傾げながら、子機を手に取った。


「母さん、何かあった?」

『今度の戌の日に石山寺に行かないかと思って』

「戌の日……? あ、腹帯か」

『あら、雄太も戌の日が分かるのね』


 理保が驚いたように言う。


「俺だって勉強してるんだぞ?」

『そうね。父親になるんだから。何より春香さんの事だものね』

「ああ。じゃあ、調教が終わったら迎えににいくよ。それで良いか?」

『ええ。春香さんによろしくね』


 理保とのやり取りを春香に伝えて、雄太は風呂に入った。




 雄太と春香、そして理保は隣の市にある石山寺へ向かった。


「俺、石山寺にくるの初めてだな」

「私も初めて。紫式部の縁のお寺だって事は知ってるけど」

「紫式部……? あ、源氏物語?」

「そうそう」


 雄太は周りの木々を眺めながら歩く。春香と理保も、ゆっくりと景色を楽しみながら歩いている。


 腹帯を受け、理保が行きたいと言う場所に移動する。


「母さん、この岩……何?」

「安産腰かけ岩って言うのよ。これに、腰かけたら安産になるって言われてるの」


 雄太の問いに理保が答える。


「安産か。うん。安産の方が良いよな。春香、座って」

「うん」

「あ、手かして。足元、気を付けてな?」

「ありがとう」


 雄太は春香を見詰め、そっと手を伸ばした。春香は雄太の手を取り、腰かけ岩の方にゆっくりと向かう。


「あ、雄太。カメラの使い方教えてちょうだい。写真撮ってあげるわ」

「そうだな」


 雄太は、春香が腰かけたのを見てから、理保の方へ戻り、カメラの使い方を教えた。


 そして、春香の隣に戻り写真を撮ってもらった。


「もし、出産ってなった時に雄太くんがいなかったら、今日のこの写真持っていくね」

「春香……」

「騎手の妻としての覚悟だよ」


 初めての出産なのだから不安だろうと思っている雄太に、春香はニッコリと笑う。


(本当……。春香には敵わないな)


 雄太は出来れば立会出産をと思っているのだ。だが、金曜日から留守にする雄太は、春香の出産時に居ない可能性がある。


 騎手の妻になり、まだ一年にもならないのに、しっかりと騎手の妻の覚悟を持っている春香を見て、理保は嬉しくなった。


(やっぱり、春香さんで間違いなかったわね。本当に良いお嬢さんを雄太の嫁に迎えられて良かったわ。帰ったら、お父さんに教えてあげなきゃ)


 理保は慎一郎の喜ぶ顔が目に浮かぶようだと思った。




 石山寺から戻り、鷹羽の家でお茶を飲みながら受けた腹帯についていた砂を眺めていた。


「これが荒いと男の子。細かいと女の子って言われてるのよ」

「ん〜。比較対象がないから分からないけど、何か安産になる気はしてきたよ」

「私も」


 理保が指差しながら説明をする。


 理保が受けてくれた安産御守りも、春香には心強く思えた。


「雄太、小倉に行くんでしょう? マメに電話してあげるのよ?」

「分かってるよ」


 雄太は春香に言われ、小倉での長期滞在を決めたばかりだ。


 『淋しくなったら東雲に帰る』と言う春香を理保も心配していた。


「ご実家に帰らないのは良いとしても、体調が悪くなったりしたら遠慮なく電話してきてね?」

「ありがとうございます、お義母さん。その時は甘えさせていただきます」

「ええ」


 二人が話しているのを見て、春香と理保は気が合うだろうと思っていたのは間違いはなかったと、雄太は思った。


 自分の留守中、理保と東雲家の二人がいてくれる事が心強かった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ