35話
「若い方は『自分は大丈夫』って過信しちゃって、気が付いた時には一度でコリが解せなくなってたりするんです。中には、筋肉に疲労が溜まってるって事に気付かない人も居るんですよ」
春香はそう言うと、雄太の右足のふくらはぎをグッと両手で包み込んで笑いながら雄太を見上げた。
「い……市村さん……。も……もしかして……」
雄太がピクッと頬をひきつらせる。
「ここ、ちゃんと自分でマッサージしてくださいね」
グッ
「の゛お゛っ‼」
雄太の声にならない叫びに、梅野が腹を抱えて笑い転げる。
「それそれぇ~。俺も初めてやられた時そんな声出た出たぁ~。市村さんって超絶怪力な人かと思ったぁ~」
「お……俺も……です……」
雄太は涙目になりながら言う。
「毎日、少しずつでも良いから解してくださいね」
「はい……。市村さんに押されても、痛くなくなるように頑張ります……」
ニッコリ笑う春香に、雄太は涙目で右手を挙げて言う。
ピピピッ
施術時間終了のアラームが鳴った。
春香は立ち上がると肘でアラームを止め、そのまま手洗い場に向かい 手を洗う。
「ジェルを拭き取ったら終了です。先に請求書とカード受け取って来ますね」
たくさんのタオルをお湯に浸しながら、春香は雄太を見た。
「はい」
(もう終わりかぁ……。30分って以外と短いよな……)
春香がVIPルームを出て行くと、梅野がニッコリと笑いながら
「雄太ぁ~。マジ良かったなぁ~。市村さんに感謝だな。てか、まだ膝掛け渡してなかったのかぁ~?」
と車椅子のハンドルにかけたままの膝掛けを指差しながら言う。
「直ぐ施術に入ってもらったんで。帰る前に渡します」
「そっかぁ~。喜んでもらえると良いなぁ~」
雄太が返事をしようとした時、春香が請求書とトレーと松葉杖を持って戻って来た。
「お待たせしました」
春香はデスクにトレーと請求書を置き、松葉杖を持って施術台に近付く。
「もう大丈夫だと思うんですけど、今日と明日は足に負担をかけないように松葉杖を使ってください。痛みが完全になくなったと思っても、くれぐれも無理しないでくださいね? 曲げ伸ばしする時には、特に気を付けてください。もし、何か違和感があったら連絡してください。来店出来そうにない時は遠慮なくおっしゃってくださいね。私が、ご自宅に伺いますから」
丁寧な説明に、一つ一つ雄太は頷いた。




