348話
翌日5月23日
「妊娠っ⁉」
「マジかよっ⁉」
「おめでとうぉ〜」
調教が終わってから、雄太は純也達に春香の妊娠を伝えた。純也達の喜びは予想以上で、ビックリするくぐらいだった。
「予定日は?」
「12月30日です」
「そうか。まぁ、予定日通りには産まれる方が珍しいぐらいだからな」
鈴掛の笑顔がいつにも増して優しく見える。
「男かな? 女かな? 俺、春さん似の女の子が良いな」
「何でソルが女の子を希望するんだよ?」
「可愛いじゃないか。男の子だったら弟分にしよう」
「却下だ」
雄太に即却下され、純也はブーブーと文句を垂れる。
「俺も春香さん似の女の子が良いなぁ〜。で、俺の嫁なぁ〜?」
「断固お断りします」
「何でだよぉ〜」
雄太にキッパリと言われ、梅野は口を尖らせる。
「梅野……。お前な、よく考えろよ? 産まれた子供が結婚出来る歳になった頃、お前おっさんだぞ?」
「鈴掛さんっ‼ おっさんなんて酷いですよぉ〜」
鈴掛に正論でブン殴られた梅野は更に口を尖らせた。
「梅野さん。雄太ん家の娘と結婚したら、雄太の事をお義父さんって呼ぶんすよ?」
「ウゲッ‼」
純也のセリフに雄太が思いっきり顔をしかめた。梅野が目をキラキラさせて、雄太の手を握った。
「お義父さん、娘さんを俺にください〜」
「全力でお断りですっ‼ 却下以外に選択肢はないですっ‼」
「何でだよぉ〜。俺と春香さん似の娘の子は可愛いかイケメンだぞぉ〜? 良い孫確定だぞぉ〜」
あまりのブッ飛んだ梅野の発言に純也がゲラゲラと笑う。
「こんな義理の息子嫌だよな」
「重ねがさね鈴掛さんは酷いですぅ〜」
「分かった。言い換えよう。こんなのが娘の婿だなんて春香ちゃんが可哀想だろ」
「同じじゃないですかぁ〜」
雄太も堪らず爆笑してしまう。純也は笑い過ぎて、座り込んでいる。
「今は大事な時だよな」
「はい。春香も気を付けて生活するようにしてますし、俺も出来る限りサポートしていきます」
「無事に元気な赤ん坊が産まれるのを楽しみにしてるぞ。俺に出来る事は少ないだろうけど、何かあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
雄太は鈴掛の頼もしさを再認識した。父親として色々教えてもらえるだろうと思い頭を下げた。
三人と別れた後、雄太はスタンドに向かう。
春香がマッサージをしていたスペースに行き、壁に貼り紙をした。
『マッサージに来てくださっていた皆様へ
この度、鷹羽春香は新しい生命を授かりました
マッサージの方はしばらくお休みとさせていただきます
再開時期は未定となっております
また皆様にお会いしてマッサージさせていただける日を楽しみにしております
5月23日 鷹羽春香』
壁に貼っている時から、雄太の周りには何人もの人が訪れ、春香の懐妊を喜んでくれる。
「おめでとう。良かったな」
「あらあら、春ちゃんが……」
「楽しみだな、雄太ちゃん」
たくさんの人々に声をかけられ、何度も礼を述べながら胸がいっぱいになる。
(俺と付き合って、何人もの人に酷い事を言われた場所で、こんなにも春香に子供が出来た事を喜んでもらえている……。良かったな、春香)
「鷹羽」
「あ、下川さん」
お祝いを言ってくれた人が持ち場に戻って行くのを見ている時、下川が近付いて来て声をかけて来た。そして、貼り紙を見た。
「そっか。鷹羽も父親になるのか。おめでとう」
「ありがとうございます。あ、妻が下川さんのG2優勝を喜んでましたよ」
「え? 本当、鷹羽の奥さんには敵わないな……」
「俺も勝てませんから」
春香と関わり下川は変わった。人に優しくなったし、トゲトゲした部分がなくなった。
雄太達を悪く言っていたという噂が消えるまで時間はかかるだろうが、下川は腐らずに前を向いていた。
「二世の誕生を楽しみにしてるよ。奥さんによろしくな」
「はい」
皆や下川の言葉を春香に伝えたら喜ぶだろうなと思いながら、雄太は春香の待つ自宅へと帰っていった。




